2022 Fiscal Year Annual Research Report
言語進化学における進化的説明の科学哲学的考察--進化するとはどういうことか
Project/Area Number |
21J22648
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
中条 太聖 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 言語学の哲学 / チョムスキー / 生成文法 / 非文 / モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
言語学におけるモデリング実践について、生成文法の非文に着目して分析を行った。生成文法という言語学の科学的実践を分析することは、言語科学における対立を整理するに不可欠な要素である。言語の認知科学的探求の基盤は賛否あれ、生成文法が提供しているだろうからである。 生成文法における非文の分析;非文とは、生成文法に特徴的な非文法的な記号列である。非文法的とはいえど、全くもってでたらめな記号列ではなく、文法性の探究における対照項としての役割があることを明らかにした。また非文の対象項としての役割を把握し損ねると生成文法に対する評価に混乱が齎されることを指摘した。非文を用いることは「文法性」を分類することである;自然界を眺めているだけでは自然法則は見つけることはできないように、文法的な文をいくら眺めていても文法性の規則を見出すことはできない。規則を切り出すために、GG研究者は非文を用いるが、非文がでたらめな記号列 (例えば「saw love in John what」)であっては、規則を見出すこと目的は果たされない。というのも、文法的な文が多くの基準を満たしているのであれば、翻って非文はそれだけ多くの仕方で非文法的でありえ、でたらめな記号列は数多の非文法性を包含してしまうからだ。非文とは極めて文法的に見える記号列であると先述したのは、それが文法性を成立させる諸規則を一つずつ分節化するものだからである。文法性を分節化するという非文の存在が、GGを博物学にとどまらない自然科学として成立させている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画では、生成文法以外の言語科学に着目することを掲げていたが、現状は生成文法の分析に終始している。しかし、言語の認知科学的探求の基盤は賛否あれ、生成文法が提供しているだろうことに鑑みるに、生成文法の科学的実践を分析することは、言語科学における対立を整理するに不可欠な要素であり、重要なステップである。またそこから得られた知見は、他の分野の分析においても決定的なものとなるので、本質的な遅れはないと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
1.生成文法ではない他の言語学、言語を扱う自然科学における理想化に関する研究、及び生成文法との比較を行う。本年度で得られた生成文法おける理想化によって得られる理解を基軸に、言語進化学に参与する他の言語学(想定は認知言語学)や生物学(動物行動学、比較認知学など)、コンピュータサイエンス(構成論やNLP)において得られる理解を比較検討する。各研究分野の言語進化研究における棲み分けや、理論的な衝突を詳らかにすることが目的である。 2.生成文法の主張する言語の生得性の議論を、機械学習の発展から得られている言語モデルとの対比をおこなっていく。生成文法と対立する言語学の間の係争点の一つは、言語の生得性についてである。生得性の議論を行うことで、生成文法の理解と共に、言語進化論争の解決につながる。
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