2021 Fiscal Year Annual Research Report
超微小な粘度を蛍光寿命で定量できる「羽ばたく分子」の開発と光科学技術への展開
Project/Area Number |
21J22951
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
木村 僚 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 粘度プローブ / ネマチック液晶 / 蛍光分子 / 相転移 / 分子配向 / 会合 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究内容1.羽ばたき型蛍光粘度プローブによるネマチック-等方相転移に発生する微小な局所粘度変化の検出 アントラセンイミドを「羽」にもつレシオメトリック型蛍光粘度プローブFLAP0および、報告者らが独自に開発したペリレンイミドを「羽」にもつ蛍光寿命型FLAP1をネマチック液晶である4-シアノ-4’-ペンチルビフェニル(5CB)に分散させ、蛍光挙動を解析した。FLAP0では5CBの相転移時に局所粘度の指標である蛍光強度比が特異的に変化した一方、FLAP1では指標となる蛍光寿命の値の特異的な変化は見られなかった。また、同様の実験を従来型の蛍光粘度プローブであるBODIPY-C12でも行ったが、こちらでも特異的な変化は検出できなかった。すなわち、相転移に伴い、巨視的なせん断粘度とともに、局所粘度も変化しており、それはFLAP0でのみ検出することができた。また、共同研究により、FLAP0を導入した5CBの蛍光異方性を解析した結果、FLAP0の励起状態における平面構造は5CBのダイレクタ(長軸の向き)に平行に配向している可能性を示すことが判った。 研究内容2.縮環様式が異なる羽ばたくペリレンビスイミドの光物性 また,ペリレンビスイミド(PBI)とCOTの縮環様式がFLAP1とは異なる羽ばたく分子FLAP2を合成したところ,トルエン中でFLAP1は弱い橙色蛍光を示したのに対し、FLAP2は強い緑色蛍光を示した。さらに、溶媒の極性が高くなると、蛍光量子収率が著しく低下し、蛍光寿命が短くなることが観測された。対応するPBIモノマーではそのような現象は見られず、量子化学計算の結果と併せて、アセトンやDMF溶媒中では、励起状態平面化を伴う速い無輻射遷移が起こっていることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究室独自の「羽ばたく」分子をネマチック液晶に導入し、物性変化を考察する研究課題では、4月からテーマを開始させたにもかかわらず、粘り強くデータを集め、液晶の専門家と共同研究を行い液晶中における分子の配向についての考察を深めることに成功した。9月には液晶分野の国際学会で発表するに至り、一連の成果をまとめた論文はChemical Communications誌に受理されるに至った。 縮環様式を変更した羽ばたくペリレンビスイミド(PBI)のテーマでは、新しい分子骨格を合成するところからのスタートであったが、習得した技術を活かして、各合成ステップの収率を向上させるとともに、試行錯誤の末、会合挙動を考察するのに適した基質を見つけ出すことに成功した。今後は具体的な会合挙動の評価が期待される。 これらを勘案して、計画は順調であると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
ペリレンビスイミド(PBI)をシクロオクタテトラエン(COT)に対して縮環させた新奇FLAPについて、合成経路及び単離は博士課程一年の時に確立・達成している。 そのため、必要に応じて追合成を行いつつ、まずは溶液中の物性を調べる。具体的には、トルエン等、PBIをよく溶かし、かつ単分子としての物性を考察できる溶媒から、会合を起こしやすいアルカン系の溶媒まで幅広く溶液物性を考察する。予備的ではあるが、アルカン系溶媒としてメチルシクロヘキサンはアルカン系溶媒の中で比較的FLAPを溶解させ、会合挙動を観察するのに適していると考えられるため、用いることを予定している。 その後、COTと縮環していないペリレンビスイミドを合成し、同様に溶液中における物性を観察する。 両者で溶液中における、会合度合いの大小を具体的に会合定数として評価を行い、COTとペリレンビスイミドを縮環させることによってどの程度会合が起こりやすくなるのかを調査する。なお、量子化学計算も並行して行い、縮環による励起状態ダイナミクスの変化の考察も行うことを予定している。
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