2022 Fiscal Year Annual Research Report
日本における移民的背景のある児童生徒の学力形成に関する研究
Project/Area Number |
21J23428
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
中原 慧 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 移民的背景の子ども / 学力格差 / 移民世代 / 学習時間 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、就学時の認知的能力と小学校入学後の学力の関係の分析や就学時の認知的能力と就学前の保護者の教育的な関わりとの間の分析を中心的に行った。特に、就学時の認知的能力と移民的背景の間の交互作用の検討や親の教育的な関与と移民的背景の間の交互作用の検討など、移民的背景があることで日本人と異なる効果が生じているかも検討した。その結果、移民的背景のある子どもについては、就学時の認知的能力が小学校入学後の学力に対してより重要な役割を演じていることが明らかとなった。一方で、就学前の親の関わり方の効果は、移民的背景の有無の間の差異が小さく、日本人と同様の効果を持っていることがあきらかになった。
また、宿題などの家庭での学習時間の多寡についても分析を行った。家庭での学習時間を従属変数にした分析の結果、移民的背景の有無によって学習時間には差異が生じていなかったが、家庭での主に用いる言語など、移民的背景の有無に関連する変数では統計的に有意な効果が推定された。つまり、平均的な水準では移民的背景の有無によって、家庭での学習時間に差異は生じていないが、おのおのの状況を検討する必要性が示された。
以上の結果は、第一に、移民的背景のある子どもの学力を考える上では、就学前の段階から、彼らに関わっていくことが重要であることを示している。特に、学習時間に大きな差異がない状況を鑑みると、小学校入学時点などの初期的な格差が生まれないような介入をしていく必要性がある。また、内部での困難さの度合いは様々なと考えられるが、平均的な水準では学習時間に移民的背景の有無による差異が少ないことから、学習時間の長短ではなく、彼らがどのように学習を進めているのかという、質的な側面への着目の必要性を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、計量的に移民的背景の有無による学力格差を分析することを目的としていた。今年度は、昨年度より引き続き、就学時の認知的能力と学力の関係性を分析した。また、保護者の教育に関する関わり方についても分析を行い、計画以上に就学前から就学後にかけての子どもの学力についての分析を行った。加えて、学習時間の媒介関係についても分析を行った。第一に、平均的な水準に差異が生じているのかや階層間や男女間で差異が生じているのかなどを検討した。また、回帰分析を用いて、性別や社会階層などを統制した上で移民的背景のある子どもの学習時間が短いか否かも検討した。この点は、計画通りであった。ただし、当初予定していたパス解析などは行えていないが、重回帰分析を中心に媒介関係を検討することは進められている。
また、昨年度より引き続き、京都府内でのフィールドワークを継続している。それに加えて、今年度は、大阪府内のインターナショナルでのフィールドワークを開始した。インターナショナルスクールに子どもたちを調査することで、日本の学校に通う子どもの状況を相対化することができると考えている。
学会報告や論文投稿も複数件行っており、その点でも、比較的研究計画に沿った進捗状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は、第一に、前年度分析に用いられなかった、構造方程式モデリングなどの手法を用いることを目標とする。特に、構造方程式モデリングなどの同時的に複数の要因を分析できる手法を用いることで、直接効果や間接効果を推定する。こうした分析を行うことで、より明確な形で、移民的背景があることの効果やそれが就学時の認知的能力、学習時間など、本研究で検討してきた要因がどの程度媒介しているのかを示す。
第二に、2023年度も引き続き、京都府内でのフィールドワーク及び大阪府内でのフィールドワークを継続する。京都府内のフィールドワークでは、義務教育が想定する学齢に合わないことで、困難に直面する者など、多様な移民的背景のある子どもの教育に関する状況を調査している。また、大阪府内では、学齢としては問題なく、日本の学校に通えるものの、インターナショナルスクールに通う子ども達を調査している。選択的に日本の学校以外を選択する子どもたちを調査することで、多様な教育の在り方やその中での学習の進め方を理解する。
最後に、今年度が最終年度であるため、前年度以上に積極的に成果報告を行っていく。
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Research Products
(2 results)