2022 Fiscal Year Annual Research Report
核生成機構の体系化とその速度論的モデル構築に立脚した合理的ナノ粒子合成戦略の確立
Project/Area Number |
21J23476
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
飯田 裕也 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 核生成経路 / 核生成速度 / MDシミュレーション / ナノ粒子 / ポピュレーションバランス / 粒子径分布 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,合理的なナノ粒子設計戦略を確立することを目的とし,分子種や合成条件によって多様に変化する核生成経路を決定づける因子の解明とその経路を定量的に記述するモデルの構築,および経路の影響を組み込んだ粒子径分布推定手法の開発を行う。本年度の実績を以下に示す。 [1] LJ分子2成分からなる溶液系の核生成過程のMDシミュレーションにおいて,分子サイズが核生成挙動に強く影響し,分子サイズの増大が核生成を促進・抑制する両方のケースがあり得ることを見出した。さらに,このような分子サイズがもたらす特異的な効果を,昨年度構築した熱力学モデルを用いて分子間相互作用の数の観点から説明可能であることを明らかにした。本検討は,昨年度に構築した核生成経路予測モデルにおけるパラメータの物理的な意味合いを明確にし,モデルの有用性をより強固にするものであり,実在分子系における核生成経路予測につながる重要な知見をもたらしたと言える。以上の成果について論文を執筆中である。 [2] LJ分子3成分からなる溶液系の核生成過程のMDシミュレーションを実施し,系が一段階と二段階のどちらの核生成経路をとるかは,溶質同士の相互作用の強さに支配されることを明らかにした。これにより,LJ 2成分系で得た知見が,成分が増えても成立することを確認した。 [3] 構築した熱力学モデルに基づいて自由エネルギー障壁の高さを用いて核生成速度の予測値を計算し,MDシミュレーションの実測結果と比較した。その結果,MDシミュレーションの核生成経路を十分に説明可能な構築モデルをもってしても,核生成速度に関しては実測結果と数桁の誤差を生じてしまうことがわかった。その原因が,モデルの入力値として必要な界面張力の数%の誤差が核生成速度の計算において1オーダー近くの誤差にまで増幅されることにあることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
核生成速度予測において界面張力のわずかな誤差が大幅に増幅され,正確な核生成速度の予測が原理的に難度の高いものであることがわかり,当初想定していた核生成速度予測精度の向上のための検討については軌道修正を余儀なくされたため,やや遅れていると判断した。ただし,以上を踏まえ,核生成速度の誤差が粒子径分布推定において許容される範囲,および核生成経路の違いが粒子径分布にもたらす影響に関する検討へとシフトしており,粒子合成の設計指針を提示するという目的の達成に向けては問題ない程度の遅れと認識している。
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Strategy for Future Research Activity |
構築した核生成経路予測モデルの改良を前年度に引き続き行う。実在系に適用可能なモデルへの拡張を行うため,特に電荷(長距離相互作用)の影響を中心に核生成経路・速度に与える影響をMDシミュレーションによって検討する。短距離のLJ相互作用と長距離の静電相互作用の大きさの比が経路選択において重要な役割を果たすと考えており,相互作用パラメータと電荷の値を変化させてシミュレーションを行い,その際の核生成挙動(経路・核生成時間)を比較する。得られた知見を前年度までに構築した核生成経路予測モデルへ反映させ,核生成経路モデルとして結実させる。また,粒子径(液滴径)に加えて,粒子(液滴)内の結晶化領域の割合を変数にもつ粒子についてのポピュレーションバランスを解くことで,核生成経路の影響を考慮した粒子径分布推定数値シミュレーションを行う。核生成速度の予測における誤差が最終的な粒子径分布に与える誤差の影響を検討するとともに,経路の違いが最終的に得られる粒子の粒子径分布に与える影響を整理する。
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