2021 Fiscal Year Annual Research Report
ゲノム・エピゲノム異常の統合的解析による炎症性肝発癌メカニズムの解明
Project/Area Number |
21J40204
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
井口 恵里子 京都大学, 医学研究科, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | DNAメチル化 / 炎症性肝発癌 |
Outline of Annual Research Achievements |
炎症性発癌に寄与することが知られてきたActivation-induced cytidine deaminase (AID)によるゲノム変異のプロファイルに、DNAメチル化がどのように影響しているかを明らかにすることを目的とし、特に転写活性の高い遺伝子に作用するDNA methyltransferaseであるDNMT3Bに着目して研究を行っている。 肝細胞特異的AID過剰発現・DNMT3B野生型マウス(コントロールモデル)及び肝細胞特異的AID過剰発現・DNMT3Bノックアウトマウス(DNMT3B KOモデル)を作成し、90週齢において表現型の解析を行ったところ、コントロールモデルでは25%程度の個体に腫瘍が見られたのに対し、DNMT3B KOモデルではほぼ100%の個体に腫瘍の自然発生が認められた。 発生した肝腫瘍より抽出したDNAを用いて全エクソン解析を行うと、コントロールモデルの腫瘍ではAID特有のパターンの変異を多く認めたが、DNMT3B KOモデルの腫瘍では変異数が非常に少なかった。これは、AIDが非メチル化シトシンをチミンに変換するという性質を踏まえて「DNMT3B KOによりAIDによる変異が増えるであろう」と考えていた我々の仮説に反するものであったが、DNMT3B KOによりAIDタンパクレベルが顕著に低下する、DNMT3BタンパクとAIDタンパクが直接結合している、などの結果が得られたことにより、DNMT3Bの非存在下ではAIDタンパクが不安定となり変異原性も低下していることが示唆された。 DNMT3BがDNAメチル化に限らず多様な働きを有し炎症性発癌過程に作用している可能性が示唆され、現在さらにその機序の詳細を研究中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定通り2021年度中にマウスの表現型解析及びマウス腫瘍に生じたゲノム変異の網羅的解析を行うことができた。 マウスの表現型解析においては、コントロールモデルと比較してDNMT3B KOモデルにおいて自然発生腫瘍の数が有意に増加するという興味深い結果が得られた。 また、ゲノム変異の解析結果は当初立てていた仮説とは反対の結果であったが、その理由を説明しうる実験結果が得られており、現在さらにその機序の詳細を検討中であるため、概ね順調な経過と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
前述の研究経過より、DNMT3BがAIDと何らかのinteractionを持ちAIDの変異原性を補助していることが示唆された。DNMT3Bタンパクの結合によりAIDタンパクの安定性が維持されているのではないかと考え、現在ユビキチンアッセイなどによりその機序の詳細を調べているところである。 またDNMT3B KOモデルでは、コントロールモデルと比較して腫瘍に変異が少ないにも関わらず、腫瘍発生数が有意に多いという点は不可解であるが、ゲノム変異によらない発癌機序が寄与しているものと推測し、現在エピゲノム異常の解析を検討中である。 なお、慢性肝炎・肝硬変・肝癌という炎症性肝発癌過程において徐々に増加してくることを我々が以前報告した、DNMT3Bの酵素活性ドメイン欠失型アイソフォームが、AIDとどのような相互作用を有し発癌に関与しうるのかについても今後の検討課題である。
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