2022 Fiscal Year Annual Research Report
古代懐疑主義哲学における合理性――理性の限界、問答法、経験主義
Project/Area Number |
22J00089
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
安田 将 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | 懐疑主義 / アカデメイア派 / ピュロン主義 / ヒューム / デカルト / 経験論 / 蓋然性 |
Outline of Annual Research Achievements |
古代懐疑主義には、一切の主張を行わない特徴によってスケプティコイ(懐疑派・探究派)を自称し始めた前1世紀以後のピュロン主義と、知識不可能(アカタレープシアー)を主張したアカデメイア派(前3世紀-前1世紀)の二つの立場が含まれる。二つの立場を、全面的エポケー(判断保留・信念放棄)の有無によってそれぞれ徹底的懐疑主義、緩和された懐疑主義と特徴づけるヒュームの整理は現在も用いられる。本研究は古代懐疑主義のこうした特徴づけを、そこに介入しているかもしれない近代的前提を相対化しつつ再検討する基本方針のもとで、2022年度は(1)アカデメイア派における緩和された立場、(2)ピュロン主義における日常的信念に関する二つの論点に取り組んだ。 (1)信念形成に関する過信と不信のいずれにも陥らない適度な疑いを可能にする緩和された懐疑主義としてアカデメイア派の懐疑主義を評価したヒュームの影響は現在でも続いている。本研究は(i)「知識不可能だが行為可能である」という主張を基調とするアカデメイア派の歴史のなかで、ヒュームのアカデメイア派懐疑主義の理解に強く影響を与えているキケロの立場がもつ意味を論じた。 (2)ピュロン主義は全面的エポケーを特徴とする徹底的懐疑主義の一種であり、それとは別種の徹底的懐疑主義であるデカルトの方法的懐疑と、次の二点でしばしば対照される。ピュロン主義において、心に対して外的な世界を含む事物の存在は疑われることはない(特徴a)。また全面的エポケーが行為と分離して遂行されることもない(特徴b)。本研究は、ピュロン主義が則る先行思想(経験派医学、およびエピクロス派の感覚知覚理論)の枠組みが特徴a・bをもたらしていることを示し、それによって、ピュロン主義の現れ(パイノメナ)が認識的性質をもつか(それゆえ「日常的信念」をもつか)否かをめぐる解釈上の争点について新たな示唆を与えた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記論文(2)は当初の研究実施計画通りに作成された。論文(1)を、当初予定していた相対主義と懐疑主義の関係に取り組む論文とは別に準備した。相対主義と懐疑主義の関係に取り組む論文は、次年度に準備・発表する予定である。なお年度末に海外研究機関にて訪問研究員として在外研究を予定通り開始した。
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Strategy for Future Research Activity |
海外研究機関での訪問研究員としての在外研究を2024年3月まで行う(イギリス・オックスフォード大学、古典学部)。帰国後、日本国内において本研究全体の成果発表を行う。 在外研究期間中は、海外研究機関における所属学部における受入研究者と相談の上、口頭発表および投稿のための論文の準備を行う。所属学部および哲学部、ならびにイギリス国内外の発表機会を活かして、二つの論文(1-2)を完成させるとともに、新たな論文(3)を 準備する。
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