2023 Fiscal Year Research-status Report
古代懐疑主義哲学における合理性――理性の限界、問答法、経験主義
Project/Area Number |
22KJ1767
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
安田 将 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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Keywords | 古代懐疑論 / アカデメイア派 / カルネアデス / キケロ / アウグスティヌス / 合理性 / 蓋然性 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度末より、海外研究機関にて訪問研究員として在外研究を行った(2024年3月まで)。以下の三論文(a-c)を制作した、前二者は、それぞれ(a)滞在先研究機関にて口頭発表を行い、(b)次年度初頭(2024年4月)の国際学会における口頭発表のための応募を行った(報告書作成時には採用通知・口頭発表済み)。 (a)古代のアカデメイア派は、「不確実なものへの同意は、偽なるものへの同意と同じく、誤謬である」という基準をストア派と共有した上で、知者(誤謬から自由な者)であるためにはあらゆる同意を差し控えることが必要だと論じた。本稿は、キケロの『アカデミカ』にみられる、あらゆる同意の差し控えを最大の義務とするアカデメイア派の立場は、「知恵をもち誤謬から自由な者であるべき」であること自体に対する懐疑的留保というキケロに特有の要因にもとづいて立てられていることを示した。 (b)懐疑的アカデメイア派に、たんに論駁的ではない建設的な「真理の探究」を帰する解釈は、古代から一定の支持を得ている。本稿は、懐疑的な真理探究についての可能な解釈のうち、(i)表象が真でありそうであることを(なんらかの意味で)正しく判断できる能力を知者に認める立場から、(ii)とりわけ「完全な」真理探究が知者にとって(のみ)可能だとする立場を区別し、(i)をカルネアデスに帰することは十分に可能であるのに対して、(ii)を帰することはおそらく不可能であり、後者は真理と「真でありそうなもの・真に似ているもの」との間の類似性に関する(ラテン語で書かれたキケロの著作に特有の)前提を有すると論じた。 (c)あらゆる同意を差し控えることによって「不行為(アプラクシアー)」が帰結する問題に関する、ギリシア語資料とラテン語資料との間の差異について、知者にふさわしい生の論点の存否ではなく、当該論点に帰された意味づけの点から説明されると論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度末時点での研究実施計画では、アカデメイア派懐疑論に関しては一つの論文を制作する予定であったが、実際の論文制作を行っていくなかで、三つの論文へ分割することになった。それぞれの論文制作を今年度の在外研究中に進め、うち二論文は口頭発表を済ませ、次年度(PD三年目)に雑誌投稿予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度(PD三年目)に、アカデメイア派懐疑論に関する三論文(a-c)のうち二者(b, c)については学術誌投稿を行う。残り一者(a)については改稿版を学会口頭発表を行い(発表受理済み)、海外学術誌への投稿をめざす。 同時に、(i)ピュロン主義的懐疑論に関する二論文の準備を行うとともに、(ii)アカデメイア派懐疑論の基礎資料の一つであるガレノスの著作『最良の教育について』翻訳を進める。(i)についてはPD期間終了後の翌年度に学会口頭発表を行う予定である。(ii)については、PD三年目もしくは翌年度に学術誌投稿予定である。
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Causes of Carryover |
端数によって少額の次年度使用額が生じた。次年度分として請求した助成金と合わせて、当初のとおりの使用計画を予定している。
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