2022 Fiscal Year Annual Research Report
Philosophical Radical on Political Reform: Debate over the Ancients and Moderns in the Nineteenth-Century Britain
Project/Area Number |
22J01183
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
村田 陽 京都大学, 経済学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | J. S. ミル / ジョージ・グロート / 哲学的急進派 / ウィリアム・ミトフォード |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、哲学的急進派を代表する思想家ジェレミー・ベンサム、ジェイムズ・ミル、ジョージ・グロート、J. S. ミルが、功利主義理論に基づいて民主的改革を支持した知的背景について、19世紀英国における「古代-近代論争」の観点から明らかにするものである。令和四年度では、哲学的急進派の古典古代論と「古代-近代論争」の知的潮流という二つの研究を主に実施した。 前者のテーマについては、特にミルとグロートの民主政論に着目することで、両者の思想史研究を進めた。ミルによって刊行されたグロートの『ギリシア史』に対する計七篇にわたる書評論文のテクスト分析を行い、他方、『ギリシア史』のなかでも、アテナイの民主政史を扱った部分を重点的に検討した。さらに、両者が論敵とした保守の歴史家のウィリアム・ミトフォードによる『ギリシア史』を研究対象に加えることで、哲学的急進派と保守の歴史観の対立を明らかにした。以上の比較研究によって、ミルとグロートが古代史に着目した理由には、民主政の再評価と歴史学の刷新という二つの意図があったことが示された。 ミトフォードの『ギリシア史』には、混合政体の擁護論に基づいて単一政体である民主政の歴史を鋭く批判する政治的視点が含まれていた。対してミルとグロートは、19世紀の文脈で民主政の利点と欠点を再評価するために、アテナイの政治的実践の長所を明らかにしようとした。この再評価を通じて、両者は古代史を対象とした歴史学の刷新も必要であると認識した。 後者のテーマである「古代―近代論争」の知的潮流に関しては、二次文献を参考にしながら、17世紀から18世紀にかけての英国での同論争を調査した。特に18世紀には、混合政体論において古代ローマの政体論をいかに評価するかが一つの争点となっており、19世紀との違いがみられる部分であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和四年度は哲学的急進派のなかでも、ミルとグロートのアテナイの民主政論を中心に、両者の比較を行った。その結果、グロートと比較してミルには、古代ギリシアの政治的実践を近代の文脈で捉え直そうとする傾向が強くみられた。本研究の分析対象であるベンサムとジェイムズ・ミルについては、両者の古典古代と歴史に関する言説・著作を確認し、部分的にそれらの分析を開始した。ミルとグロートには、ベンサムとジェイムズ・ミルよりも古典古代を積極的に研究する姿勢が強くみられたため、まずはミルとグロートを研究対象にすることが妥当であると判断した。 さらに、ミルとグロートが直接的に言及した保守のミトフォードによる『ギリシア史』のテクスト分析を行い、19世紀の「古代―近代論争」の様相を明らかにするための手がかりを探った。その結果、哲学的急進派と保守の政治対立が、アテナイの民主政を肯定的に捉えるのか(哲学的急進派)、単一政体としての民主政を危険視するのか(保守)という歴史認識に深く関わっていることが明らかになった。ミルとグロートは、ミトフォードの歴史学が党派的な信条に左右されていることを問題視し、客観的な歴史、つまり「科学」としての歴史学の構築が求められると考えた。以上の研究結果については、学術論文として公表した。 他方、本年度は「古代―近代論争」という分析枠組みに関する調査も行った。二次文献を中心に、17世紀から18世紀にかけての同論争の展開、主要論者、主要論点の整理を進めた。次年度以降の研究において、同論争が19世紀英国でどのように変化し、継続したのか(あるいは継続しなかったのか)を分析するための基礎的研究を実施した。
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Strategy for Future Research Activity |
令和五年度は、ミルとグロートによるギリシアの哲学者・ソフィスト解釈と19世紀英国の「古代―近代論争」について研究を行う。前者は、ミルが刊行したプラトンの初期・中期対話篇の翻訳とそれに添えられた評説、グロートの古代哲学に関する著作とそれに対するミルの書評論文を分析対象とする。ただし、令和四年度に分析したグロートの『ギリシア史』やそれに対するミルの書評論文においても、ソフィスト論や弁論術に関する争点が含まれているため、前年度の研究結果も参照することで研究を進める。両者が注目した哲学者は主にソクラテス、プラトン、ソクラテスと論争を繰り広げたソフィストたちである。必要に応じて、これらの古代人に関連する哲学研究を参照し、ミルとグロートの解釈上の独自性を検討したい。 後者の19世紀英国における「古代―近代論争」に関しては、18世紀の当該論争をモデルとしながら、19世紀の特徴を明らかにする。民主政の是非をめぐる論調が19世紀の特色であるともいえるが、これは18世紀との主要な相違点となり得る可能性があり、同論争が19世紀では別の論争へと変容した兆しが前年度の研究から示唆された。そのため、18世紀の同論争を一次文献に基づいて検討し、哲学的急進派が登場しはじめる18世紀後半に特に着目する。そのうえで、19世紀中葉にかけてグロートや他の歴史家がギリシア史を大々的に扱った理由を明らかにする。この点に関して、グロートの未公刊資料を中心に一次資料の収集・調査を英国等で実施する。 以上二つの研究が次年度の主要テーマである。ただし、本年度に着手したベンサムとジェイムズ・ミルの分析を発展させるために、両者の民主的改革論に関連するテクスト読解を可能なかぎり行い、令和六年度の研究計画の基礎研究を進めたいとも考えている。
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