2022 Fiscal Year Annual Research Report
19世紀オーストリア文学における社会小説の影響―A・シュティフターの小説を中心に
Project/Area Number |
22J10065
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
杉山 東洋 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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Keywords | シュティフター / 社会小説 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は申請時に予定していた課題すべてに取り組むことはできたものの、成果物の公開には至らない部分もあった。 まず年度前半には予定通り、社会小説論を執筆したマイヤーと、オーストリアの作家シュティフターの関係性について、マイヤーに関連する同時代人の伝記的背景などを調査した。そしてその成果を7月末の研究会にて発表した。その前段階として、学内の研究発表の場でもマイヤーとシュティフターの関係性を別の観点から論じ、議論の意義を確認することができた。これらを通じて、批評と実作という二つの論点を区別してシュティフターと社会小説の同時代性を論じる必要を確認し、社会小説批評を19世紀全体の文脈を踏まえて論じるべきだと考えた。そのうえでより綿密な議論を形成するため、当該年度の論文執筆は見送ることとなった。 年度後半の成果として、シュティフターが生きた時代の文化的、社会的背景を広く踏まえて「社交」概念の意味づけを明らかにするため、『老独身者』に関する論文を執筆し、予定通り学内の研究雑誌に掲載した。これによって、社会小説の歴史的理解に重要な「社会」概念と密接な関係をもつ「社交」概念がシュティフター作品の中でどのような文脈に位置付けられるのかについて一定の判断基準を得ることができた。この成果は研究課題の更なる発展に寄与するものである。 同じく年度の後半に行う予定であった小説『電気石』に関する研究は、学内の研究発表の場で公にしたものの、当初予定していた論文の投稿には至らなかった。これは上記の『老独身者』に関する課題が予想以上に難航したためである。文献調査や一次文献の収集は完了しており、翌年度に当初の計画に沿って研究を進めることで以上の進捗の遅れについては修正が十分可能であると判断される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初予定していた全ての課題について何らかの形で研究を行っているため、計画からの大幅な逸脱などはなかった。また、研究環境の急変や資料不足といった状況に陥ることもなかった。 研究内容を論文として公表するという点で二つの課題を計画通り遂行することができなかったことから、進捗には遅れが生じていると言わざるを得ない。これは、社会小説に関する先行研究の整理がこれまで十分になされてこなかったがゆえ、未読の論考が追加で発見され、議論の精度を高めるためにそれらを読解する必要が生じ、予定以上に文献調査を行うこととなったがゆえである。他方で、本研究の要であるシュティフターに関する先行研究については、近年の論文や研究書の中でその概観が十分になされており、もともと予定していた研究実施期間内に必要な作業を行うことができた。 上記のような研究の遅れについては当該年度の中ごろには確認されていたため、途中で研究計画を修正し、当該年度には参照すべき文献を確認し、研究史を整理することに注力した。それによって、来年度に十分な先行研究の知見に基づき作品読解や社会史的分析を行うことができ、遅れることとなった研究成果の刊行につながると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
翌年度の当該研究課題を遂行する上では、研究史上の重要性や議論の方向性を踏まえ、先行研究全体を独自に整理することが求められる。それによって、一次文献を読解するための安定した視座を得ることとなり、本年度の計画変更と同じ事態に陥ることを回避することができる。またこの推進方策はこれまでの文献調査から実現可能なものであり、部分的に取り組まれていた個別課題を一貫した問題意識のもとで論じることにつながると思われる。それによって、通常想定される計画よりも早く研究成果の公表に結び付くことも見込まれる。
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