2022 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22J11577
|
Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
柳田 和哉 京都大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
|
Keywords | フンボルト / 教育哲学 / 政治理論 / 市民性教育 / 公教育 / リベラリズム / 卓越主義 / 人間形成 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、初期フンボルトの政治理論を再構成し、その教育理論上の意義を明らかにすることを目的としている。本年度は、第一に、初期のフンボルトの代表的著作『国家活動の限界』において「市民」の陶冶・教育がいかなる位置付けを与えられているかに焦点を当て、テキスト分析を実施した。その結果、国家活動の最小化を志向するフンボルトの政治理論が、つとに指摘されるように非政治的な資質に基づくものではなく、政治的な確信によって裏付けられたものであること、および、フンボルトの政治理論の核心が、市民的な美徳の涵養を実現する方途を示すことにあることが明らかにされた。 また、『国家活動の限界』が執筆された1792年の前後10年程度の間に執筆された断片的な論考群を分析対象とし、政治理論の背景を構成するフンボルトの人間形成論が、道徳哲学的にいかなる基礎づけを与えられているかを検討した。フンボルトの教育理論の鍵概念とされる人間形成(Bildung)の概念が、善き生に関する社会的な見解に基づいていること、および、人間形成の規範的・道徳的な基盤が、人間本性に求められていることを、「人間形成の理論」「宗教について」等の初期の論考群の検討によって明らかにした。本年度は、以上の研究成果を国際ワークショップ等で報告した。また、以上の研究成果に基づいた学術論文を、来年度に国内外の査読つきの学術雑誌に投稿を行う予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、論文を公刊することは叶わなかったが、博士論文の中核的なチャプターに対応する論考の草稿を、年度内に2点作成することができた。フンボルトの著作『国家活動の限界』における市民の陶冶に関する見解を分析した論考、および、初期フンボルトの断片群からフンボルトが陶冶をいかに道徳的に基礎づけているのかを明らかにする論考である。基礎的なテキストや二次文献の分析・解読は引き続き一定の分量をすすめる必要があるが、おおむね順調な進捗を得ることができている。博士論文にかかわる研究としては、上述の草稿を含め、翌年度は、①フンボルトの政治思想における公民的美徳、②フンボルトの陶冶理論における道徳理論的な含意、③フンボルトの公教育・国民教育批判のそれぞれの主題に関して、国内外の学術雑誌に論文の投稿を行う予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、以上の研究に加えて、博士論文の中核部の最後の部分に位置づく、初期フンボルトの著作『国家活動の限界』の後半部における法学的議論を、前半部の国家干渉批判および初期フンボルトに一貫してみられるモチーフである陶冶理論と整合的に解釈する論考を執筆するための文献調査を行う。この論考の作成にあたっては、『国家活動の限界』それ自体の議論の精緻な解釈に加えて、18世紀ドイツにおける自然法論や実定法学関連の議論のサーベイ、および青年フンボルト自身による、クラインやドームといった当時の学者による自然法講義や国民経済学講義のノートを仔細に分析する必要がある。 また、これまでの研究を単一の博士論文として構成し直す作業にも着手する予定である。これまでの研究成果に従い、初期フンボルトの政治理論を、リベラルな社会における市民の陶冶を国家の手によるのではない仕方で構想する理論として再構成を行う。
|