2022 Fiscal Year Annual Research Report
世界最高エネルギーでの陽子陽子衝突事象を用いたベルの不等式の検証
Project/Area Number |
22J13130
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
辻川 吉明 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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Keywords | ベルの不等式 / LHC-ATLAS実験 / ミューオントリガー / Bフレーバー観測 |
Outline of Annual Research Achievements |
二つのB中間子が生成し、終状態に二つのミューオンを含む事象の観測を行うため、データの事象選別にミューオントリガーを用いる。ミューオントリガーは、ミューオンの横運動量に閾値を設けて事象選別を行う。本研究で観測する事象で生成されるミューオンは運動量が低いものが多いため、低運動量のミューオンが存在する事象をより多くデータ取得に用いるために事象選別能力の高い新たなミューオントリガーを開発した。高い飛跡分解能をもつ新検出器の情報を用いたより詳細な横運動量計算を行い、15種類へ増設した横運動量閾値による新たな事象選別アルゴリズムの開発を行い、新たなエレクトロニクスのFPGAにファームウェアで実装した。今年度は主に欧州原子核研究機構でエキスパートと議論しながら、この新アルゴリズムの開発・実装を行った。 また、LHC加速器は2022年7月初めよりビーム衝突を開始した。ビームコミッショニング期間中に開発したトリガーの実装を行い、周回ビームや宇宙線などを用いて、一連のシステムの動作検証・性能評価を行った。ビーム衝突開始以降は、衝突データによる性能評価を細やかに行い、高効率のデータ収集を行った。性能評価の結果、新たなミューオントリガーの導入により、低運動量のミューオンの取得効率を5-10%向上させることが確認できた。これにより、本研究の解析のアクセプタンスは約25%向上する。さらに、現地にて細やかにトリガー効率を監視し、異常が見られたら現地で即座に修正することで高い効率を実現することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の解析に用いる特別運転でのデータについて、昨今の情勢により取得時期が延期され、2023年度内での取得となった。しかし、2022年度の通常運転によるデータ取得に開発した新たなトリガーを導入・稼働させることで、実際の運転による性能評価・最適化を行うことができた。並行して動作検証を行い、安定した運転を実現できているので、本研究のデータ取得の準備が整った状況である。 また、過去の運転で取得したデータを用いて、解析のフレームワークの準備を進めている。データ取得に先んじて本研究の解析の地盤を固めておくことで、データ取得から解析の完了までの期間を短縮し、本研究の結果公表を迅速に行うことができる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、二つのB中間子が生成し、終状態に二つのミューオンを含む事象の観測を行う。本研究で観測する事象で生成される粒子は運動量が低いものが多いため、背景事象の削減・測定の純度の向上が必須となる。そのため、1陽子バンチ衝突辺りに陽子・陽子散乱が複数重なって起こる「パイルアップ」を1,2個程度まで大幅に減らした特別運転、「低パイルアップ運転」によるデータ取得を行うことによって、背景事象を大幅に削減する。またデータ取得の際には、前年度に開発・実装を行った低運動量のミューオンに特化した事象選別能力の高い新たなミューオントリガーを用いる。これにより、低運動量のミューオンの測定効率を向上させ、本研究の測定感度も向上させることができる。 データ解析については、B中間子の崩壊により生成した粒子の再構成を行うことでB中間子のフレーバーの決定、並びにその崩壊点の測定を行う 。高分解能・高効率の再構成を実現するため、信号事象の取得効率を最大化するように生成粒子の横運動量やエネルギーなどに対するカット値の最適化を行う。また系統誤差の評価方法も確立させ、最適な解析手法の決定を行う。ここで決定した解析手法を特別運転により得られた全データに適用して解析を行い、B中間子のフレーバーの相関を測定し、ベル不等式を検証する。これにより、ベルの不等式を満たさない結果が得られた場合、量子力学からの予測とどれだけ一致しているかについて分析する。ベルの不等式を満たす結果が得られた場合は、B中間子のフレーバーの相関の指標に対する本研究による上限値をつける。 以上の結果を2023年秋の国際会議で発表し、学術論文及び博士論文にまとめて公表する。
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