2022 Fiscal Year Annual Research Report
マイクロペプチドが上皮シート陥入を制御するメカニズムの解明
Project/Area Number |
22J14899
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
水野 苑子 京都大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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Keywords | 発生生物学 / ショウジョウバエ / 胚発生 / 形態形成 / 上皮組織 / マイクロペプチド |
Outline of Annual Research Achievements |
上皮シートの陥入運動は平坦な上皮細胞のシートが3次元の管構造になる形態変化である。所属研究室において、11及び32アミノ酸長のマイクロペプチド・Polished rice ( Pri )を欠損したショウジョウバエ胚では、気管原基と呼ばれる上皮シートの陥入が不全になることが見出された。本研究は、Priが気管原基陥入を制御する分子メカニズムの解明を目的としている。気管原基陥入は以下の3つのプロセスに分けて捉えることができる。(1)EGFシグナリングが活性化し、その下流のミオシンの平面極性が形成される(EGFシグナリングの活性化)、(2)ミオシンが駆動する細胞の配置換えが陥入中心への圧力を生み出す(中心への圧力の発生)、そして(3)圧力を受ける細胞が分裂期への進行に伴って球形化すると上皮シートが座屈する(上皮シートの座屈)。当該年度には、Priが(1)-(3)のどのプロセスに重要であるのかを解明するため、pri 変異胚において各プロセスが正常か否かを解析した。 その結果、プロセス(3)上皮シートの座屈の解析から、pri 変異胚では座屈により陥入する細胞数が少なく、陥入が浅いことが示された。さらにプロセス(1)EGFシグナリングの活性化、及び(2)中心への圧力の発生の解析から、pri 変異胚の陥入前の気管原基表面では、EGFシグナリングの下流因子であるERKが活性化している細胞が少なく、また圧力を受けて頂端側表面が収縮している細胞が少ない傾向が示された。以上の結果は、PriがEGFシグナリングの活性化範囲を制御する可能性を示唆する。さらに、in situハイブリダイゼーション法を用いた解析から、pri変異胚ではEGFシグナリングの上流遺伝子を発現する細胞が少ない傾向が示された。このことから、PriはEGFシグナリングの上流遺伝子が適切に発現するために必要である可能性が見出された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度には、計画していたイメージング解析を遂行し、Priは、気管原基陥入のプロセス(1)EGFシグナリングの活性化においてEGFシグナリングが活性化する範囲を制御しており、その破綻は適度な陥入に必要な中心への圧力を減弱させる可能性を示すことに成功した。また、複数遺伝子の発現を同時に高感度で可視化できるin situハイブリダイゼーション法を用いた解析を実施し、PriがEGFシグナリングの上流因子の適切な遺伝子発現を制御することにより、上皮シート陥入に寄与する可能性を見出した。これらのことは、マイクロペプチド・Priが上皮シート陥入を制御する分子メカニズムを明らかにする上で重要な進捗である。
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Strategy for Future Research Activity |
PriがEGFシグナリングの活性化範囲を制御することにより気管原基の陥入に寄与する仮説を検証するため、以下に示す3つの方策を推進する。気管原基においてEGFシグナリングが活性化する際には、はじめに少数の中心細胞でEGFシグナリング下流のERKが活性化した後に、そのERK活性化が外側の細胞に向かって伝播していくことが知られている。そこで方策1として、pri 変異胚においてERK活性化の指標であるリン酸化ERKの時空間ダイナミクスを解析することにより、PriがERK活性化の開始と伝播のどちらを制御するのかを明らかにする。次に方策2として、pri 変異胚において、陥入時の気管原基細胞の配置換えや頂端側表面収縮化の動態を解析する。そして方策1で明らかになったEGFシグナル異常との関係を解析することにより、PriによるEGFシグナリング制御が陥入時の細胞の振る舞いに関与している可能性を検証する。方策3では、PriがEGFシグナリングを制御する分子メカニズムの解明を目的とする。PriがEGFシグナリングの上流因子の遺伝子発現を制御する可能性を検証するため、pri 変異胚におけるEGFシグナリングの上流因子と、さらにその発現に必要な因子の遺伝子発現及び活性化状態の解析を行う。
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