2022 Fiscal Year Annual Research Report
固体高分子形燃料電池の反応工学的カソードモデルの開発
Project/Area Number |
22J15385
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
小川 輝 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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Keywords | アイオノマー内酸素透過抵抗 / 相対湿度依存性 / 含水率の指数関数 / 物質輸送抵抗の定量化 |
Outline of Annual Research Achievements |
固体高分子形燃料電池(PEFC)のカソード触媒層(CCL)内の白金担持触媒には導電性高分子のアイオノマーが添加されており、プロトンの輸送経路となっている。一方アイオノマーは白金担持カーボンの表面を被覆しているため、酸素輸送の障害となる。アイオノマー内酸素透過係数が相対湿度や温度、アイオノマー膜厚さにどう依存するかは定式化されていない。本研究では、白金担持触媒の代わりに白金板にスリット状の空隙を設けたスリット触媒を作製し発電を行い、解析を容易にすることで酸素透過抵抗を定量化した。2022年度の研究では、反応温度60 °Cから80 °C、相対湿度0.3から1、アイオノマー膜厚さ240 nm、410 nmでの実験を終えた。酸素透過係数は、相対湿度の関数である含水率の指数関数で表せることを明らかにした。また、透過抵抗はアイオノマー厚さに比例することも確認した。温度依存性について、透過係数は低温ほど小さくなるという予想と反する結果が得られた。 白金スリット触媒とは別に、市販の炭素担持白金触媒層を用いて電流電圧曲線を測定した。市販の担持触媒層を用いても、電流電圧曲線の酸素分圧依存性を測定することで、触媒層厚さ方向の物質輸送抵抗を定量化できることを示した。セル温度80 °C、セル湿度79 %、界面電位差0.80 V、酸素分圧66 kPaのとき、セル性能に与える物質輸送抵抗の影響の大きさは、プロトン輸送抵抗の方が酸素輸送抵抗よりも3.2倍大きいことを明らかにした。 2023年度は透過係数のアイオノマー厚さ依存性のデータの拡充を行う。また、市販の炭素担持白金触媒を用いた測定から、担体の違いや導電性高分子の違いなど、触媒構造の違いがどの輸送に直結するかを定量的に議論する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2022年度の研究にて、白金スリット触媒を用いた電流電圧曲線の測定から酸素透過係数を定量化する手法を確立し、反応温度60 °Cから80 °C、相対湿度0.3から1、アイオノマー膜厚さ240 nm、410 nmでの実験を終えたものの、申請者は進捗状況を「やや遅れている」と現状評価している。理由は二つあり、一つ目は電流電圧曲線の温度依存性が予想に反したためである。アイオノマー内の酸素透過係数は高温ほど上昇すると予想していたが、白金スリット触媒を用いた電流電圧曲線は低温ほど電流が大きくなる結果となった。今後、温度に逆進的であることが妥当かを考えることを含めて原因解明を進める必要がある。二点目は、触媒の性状評価よりも本手法で電流電圧曲線を測定および解析できるかの確認を優先したことで、性状評価に時間を十分に割くことができなかったためである。白金をアイオノマー分散溶液に1分間浸漬し、150 °Cのホットプレートで加熱処理することで製膜している。白金触媒重量が製膜工程の繰り返し回数に比例して増加するため、アイオノマーが層状に成膜していると考えているが、説得力を増すには触媒表面の性状評価は必要不可欠である。2022年度はまず解析手法の確立を最優先とした。同一条件で運転した場合でも電流電圧の曲線の再現を得られない場合があり、申請者は触媒表面の性状が異なる可能性があると考えている。本手法では測定できる電流が市販の触媒よりも比較的小さく、正確かつ慎重な測定が求められるため、触媒表面が予想される性状から逸脱している場合は再実験が必要となる。一方、モデル電極を用いた電流電圧曲線からの物質輸送抵抗の解析手法は既に確立済みであるため、進捗状況は「やや遅れている」という評価にした。
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Strategy for Future Research Activity |
アイオノマーをコーティング後の白金表面の性状評価を分光エリプソメーターやSEM、触針計を用いて測定し、複数の方法でアイオノマー膜厚を評価する。また、層状にアイオノマーを製膜するために白金表面に研磨を施す、または酸化処理を行う。層状にアイオノマーを製膜できたことを確認し、昨年度確立した解析手法を用いてアイオノマー内酸素透過抵抗のアイオノマー厚さ依存性、温度依存性、相対湿度依存性を測定する。昨年度は同一アイオノマー厚さでの実験データを充実させるために、一度アイオノマーを製膜した白金スリット触媒を使い続けていたが、実験を重ねるごとに膜痩せしていた可能性がある。今年度は定期的にアイオノマーを塗りなおすことで電流電圧曲線の再現性の向上を図る。 白金スリット触媒とは別に、市販の炭素担持白金触媒を用いて反応速度解析を行う。昨年度、高界面電位差におけるデータを用いれば触媒層厚さ方向の輸送抵抗を定量化できることを示した。高界面電位差における解析から決定した速度ないし輸送のパラメーターと、低界面電位差における電流電圧曲線のデータを用いて、アイオノマー内酸素透過係数を決定、定式化する。モデル電極から得た結果と炭素担持白金触媒から得た結果を比較し、双方の解析の妥当性を評価する。最終的には、得られた速度ないし輸送のパラメーターを用いて電流電圧曲線を再現できるかを確認する。
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