2022 Fiscal Year Annual Research Report
国際生産ネットワークを考慮した定量的貿易モデルの構築と原産地規則に関する厚生分析
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22J15833
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
小澤 駿弥 京都大学, 経済学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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Keywords | 海外生産 / 中間財貿易 / 産業連関 / 一般均衡分析 / 数値計算 / 原産地規則 / 自由貿易協定 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、2022、2023年度の特別研究員奨励費の交付期間の中で、企業による海外生産を考慮した貿易一般均衡モデルを構築し、そのモデルを用いて、自由貿易協定の原産地規則が企業の中間財調達先の選択を歪めることにより、各国企業の域内国における海外生産や域内国の経済厚生がどのように変化するか分析する計画である。2022年度は主にモデルの構築とそれに付随する補足的分析に取り組んだ。 本モデルは企業が利潤を最大化するように生産拠点の立地国を選択すると仮定した先行研究のモデルに、企業が財を生産する際に各産業から調達した中間財を投入する産業連関の設定を導入している。それにより、外国に生産拠点を置き、現地から輸出を行う企業が、現地国の自由貿易協定の原産地規則によって中間財調達経路をどのように変更するか捉えることができる。 また本モデルを用いて、貿易費用の低下が海外生産に与える効果に関して補足的分析を行った。企業が外国に生産拠点を設立する動機は、主に輸出費用の回避と生産費用の節減の2つであるが、現地国の輸入費用が低下したとき、企業にとって自国から現地国へ財を直接輸出したほうが供給費用を節減できるようになるため、前者の動機に基づく現地国への生産拠点の移転は減少する一方で、現地国において安価な中間財を輸入できるようになるため、後者の動機に基づく生産拠点の移転は増加することが先行研究から予測されている。 本分析は欧州8カ国の製造業6産業のデータを用いて数値計算を行い、この仮説について検証した。結果として、アイルランドの輸入費用が低下したとき、後者の動機に基づき企業がアイルランドへ生産拠点を移転する確率は上昇したが、前者の動機に基づく生産拠点の移転の確率の低下分を打ち消すには至らなかった。一方で、中間財の輸入が容易となったことにより、アイルランドに生産拠点を残した企業の生産額は増加したことが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は、1年目で今後の分析のベースとなるモデルの構築を行い、2年目でそのモデルを拡張し、原産地規則の影響に関する数値計算分析を行う計画であったため、1年目においてベースとなるモデルの構築を完了させたという点で、本研究課題はおおむね順調に進展しているといえる。 また、追加で行った補足的な数値計算分析において作成したデータセットは2年目の分析においても用いる予定であり、さらに、数値計算を行うために作成したプログラムも、一部を修正することによって2年目の分析にも用いることができるようになるため、2年目の分析を始めるうえでの下準備も並行して進めることができた。さらに、追加で行った補足的分析の結果は既に論文としてまとめており、9月以降に行われる各種学会で報告予定である。 ただし、数値計算分析において用いる一部のモデルのパラメータの推定について、当初は独自に推定したパラメータの値を分析に用いる予定であったが、推定に必要な政府統計の調査票情報に含まれる企業データの利用申請が遅れてしまい、1年目の分析では先行研究の推定した値で代用せざるを得なかった。したがって、この点については、当初の計画よりもやや遅れているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
最初に、1年目の交付期間で完了することができなかった、数値計算分析に用いるモデルのパラメータの推定を行う。推定には政府統計の調査票情報に含まれる企業データが必要であるが、これについては、経済産業省の海外事業活動基本調査と企業活動基本調査の調査票情報の利用申請を既に完了している。当データを用いて独自にパラメータの値を推定することによって、より正確な値を推定する。 次に、原産地規則の影響に関する数値計算分析を行うために、モデルの拡張を行う。具体的には、自由貿易協定の域内国に生産拠点を置く企業が、同じく域内の他の国に輸出を行うとき、自産業の中間財については域内国から調達したもののみを使用しているという場合に限り、自由貿易協定の特恵関税率が適用されるという、原産地規則の関税分類変更基準に即した設定を追加する。 その後、自由貿易協定の原産地規則が経済厚生にどのような影響を与えるか数値計算分析を行う。そのために、最初に、データから求めることができる現実の均衡と、自由貿易協定のない仮想的な均衡を求め、経済厚生を比較し、自由貿易協定の経済厚生に対する効果を計算する。そして、原産地規則を考慮しない場合の自由貿易協定の効果と比較することによって、原産地規則の存在によって引き起こされる経済厚生の歪みを間接的に計算する。なお、分析の対象とする自由貿易協定は、実際に存在する自由貿易協定とする予定であり、その自由貿易協定の関税率を反映するようにモデルにおける貿易費用のパラメータの値も推定する予定である。また、その自由貿易協定において原産地規則がどの産業に適用されているかということも考慮に入れつつデータセットを作成する。
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