2022 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22J20805
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
式田 洸 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | 古墳出現期 / 土器 / 編年 / 生産体制 / 広域 / 地域間交流 / 製作技術 / 技術伝播 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は吉備南部地域(現在の岡山県南部を中心とする地域)を主な対象地域として研究に取り組んだ。具体的には発掘調査で出土した土器の観察を行い、土器の分析から時間軸を構築する編年研究と土器に残された製作痕跡から製作技術を解明し、生産体制の変遷過程を明らかにする研究を進めた。編年研究に関しては、古墳出現期を9つの時期に分け、具体的に土器の変化を明らかにした。そして、その成果を論文「吉備南部地域における古墳出現期土器の編年」として発表した。また、生産体制の変遷に関する研究については、土器の観察を基礎として、製作痕跡から製作技術を復元し、生産体制の解明へとつなげる枠組みを構築し、地域間交流との接点も探りつつ分析を行った。その結果、当該期の土器生産を考える上で重要であると考える特定の器種のみを製作する製作者たちの出現過程を明らかにした。なお、吉備南部地域における生産体制の変遷過程に関する研究成果については年度内に発表することができなかったが、論文の執筆をほとんど終えており、次年度の早い段階で投稿することができる予定である。 吉備南部地域の土器研究と並行して、中河内地域(現在の大阪府中東部を中心とする地域)で出土した土器の観察も行った。中河内地域についても吉備南部地域と同様の分析視角で、編年研究や生産体制の変遷過程を明らかにする研究を進めた。その成果については次年度以降に論文としてまとめる予定である。 また、筑前地域(現在の福岡県北西部を中心とする地域)について、基礎的な資料の収集を行った。本地域については次年度の主たる分析対象地域とする予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
吉備南部地域については、おおむね分析を完了し、研究の前半部分ともいえる編年研究については論文として発表することができた。後半部分の生産体制の研究についても、論文投稿まで至らなかったものの、分析自体はほとんど完成している。また、その内容についても、生産体制の変遷、他地域との関係について注目すべき成果をあげており、順調に研究が進められた。 中河内地域に関しては当初計画していた資料調査の全てを完了することはかなわなかったが、残りは僅かとなっており、研究としてはかなり完成に近づいていると言える。本地域についても特に吉備南部地域との関係で充実した成果が得られており、進捗はおおよそ順調と言える。 また、吉備南部地域、中河内地域の研究の進展状況をみて着手する計画であった筑前地域についても、基礎的な資料の収集を始めることができた。まだ具体的な検討には入っていないが、次年度の本格的な研究に備えることができている。 このように、本年度の主たる研究対象とした吉備南部地域に関しては、おおよそ研究を完成させることができ、主たる研究対象ではなかった中河内地域、筑前地域に関しても一定の進展があった。ただ、吉備南部地域の生産体制についての研究について論文投稿まで至らなかったこと、中河内地域での資料調査の一部が次年度に持ち越しになったことなど当初の計画通りには進まなかった部分も存在する。以上の理由から「おおむね順調に進展している」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の方針としては、まず、吉備南部地域の生産体制の変遷に関する論文を投稿し、中河内地域についても編年研究、生産体制の変遷に関する研究を完了させ、論文としてまとめる。それと並行して、筑前地域、讃岐地域(現在の香川県を中心とする地域)、大和地域(現在の奈良県を中心とする地域)、尾張地域(現在の愛知県西部を中心とする地域)、北陸地域(現在の石川県を中心とする地域)の各地域について編年研究、生産体制の変遷に関する研究に取り組む。このように、今後の基本的な研究方針としては、これまでと同様、地域ごとにそれぞれ同じ研究視角から分析を進める予定である。ただし、地域間交流が活発な当該期の土器研究においては、それぞれの地域内の分析においても他地域の土器の様相を参照する必要がある。本研究で、期間を区切って各地域の研究に順番に取り組むのではなく、並行する期間を含みつつ複数の地域の研究を同時に進めているのはこのためである。 地域ごとの研究が完了した後は、広域的な視点からの総括的な研究に進む。まずは、各地域で構築した土器編年をつなぎ合わせ、広域編年を作り上げる。これにより、土器のみならず、様々な考古資料を時間軸上に位置づけることが可能となる。そして、その広域編年を基準とし、各地域において明らかにした生産体制の変遷の相互関係を明らかにし、あわせて、当該期の地域間交流の実態を探る。また、この段階で、ここまでで取り扱わなかった伊予地域(現在の愛媛県を中心とする地域)、阿波地域(現在の徳島県を中心とする地域)、丹後地域(現在の京都府北部を中心とする地域)、近江地域(現在の滋賀県を中心とする地域)といった西日本における重要地域についても可能であれば補足的な検討を行い、広い地域を扱いながらも密度の濃い研究を目指したい。
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