2022 Fiscal Year Annual Research Report
両側回遊生物による河川生態系への海洋資源輸送における種多様性効果
Project/Area Number |
22J21569
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
田中 良輔 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | 生態系間資源輸送 / 生物多様性―生態系機能関係 / 両側回遊性 / 安定同位体 |
Outline of Annual Research Achievements |
生態系間を移住する動物による資源輸送において、移住者の種多様性は輸送量の増大や輸送期間の長期化が起こり、受け手の群集や生態系にインパクトを規定している可能性がある。本研究では、低・中緯度地域の多様な両側回遊性魚類・甲殻類による河川への海洋由来資源輸送をモデルとして、(1)資源輸送機能(輸送量・輸送期間)における種多様性効果の仕組みを解明すること、(2)河川生態系の高次捕食者に対する海洋由来資源の貢献度を定量することを目的としている。 2022年度は、まず、両側回遊性魚類・甲殻類がどの程度の海洋由来資源として河川生態系に加入しているかを評価するために、和歌山県南部の3河川(小川、田原川、二河川)と長良川で捕獲された両側回遊性生物の遡上個体において硫黄の安定同位体比分析を行なった。多くのハゼ科魚類は海水の値と純淡水・陸域の生物の値の中間の値を示した一方で、アユは海水に近い値で加入する可能性がみられた。これらの結果は、海洋由来資源輸送量や輸送期間を推定する上で基礎的なデータを提供する。 また、(2)を実証するための手法の検討も行なった。具体的には、実験的に海洋由来の餌を3ヶ月、5ヶ月、10ヶ月与えたオオクチバスを対象として、餌履歴を反映する水晶体の硫黄同位体分析を行い、海洋由来の餌を与えた期間が餌履歴にどのように反映されているかを確認した。その結果、海洋由来の餌を与えていた期間に海のシグナルが現れること、餌を与えた期間が長いほど、海のシグナルが強くなることを確認した。これらの結果は、水晶体の硫黄同位体分析により、高次捕食者における海洋由来資源の貢献度を評価できる可能性があることを示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
両側回遊性生物の遡上量、遡上期間の定量調査を行うための河川を決定し、当初の計画通りに2022年度から1年間の遡上量、遡上期間の定量調査を開始することができた。また、両側回遊性生物の遡上個体におけるイオウの安定同位体比分析により、両側回遊生物の各種の海洋由来資源輸送機能に関する基礎データを得た。さらに、実験的に海洋由来の餌を与えたオオクチバスを用いて、捕食者の水晶体からイオウの安定同位体を用いた餌履歴推定ができることを確認できた。これらの点で、おおむね計画通りに進展していると考えている。 一方で、2022年度では環境データの不足から、各種の遡上量モデルを作成できなかったが、1年間の遡上量、遡上期間の定量調査時に合わせて環境データを収集することで解決できると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
現在進行中である1年間の両側回遊性生物の遡上量、遡上期間の定量調査及び環境データ収集を進める。それらの結果から、両側回遊性生物各種による河川への海洋由来資源の輸送量、輸送期間を推定するモデルを作成したいと考えている。また、同時に野外の河川生態系における捕食者(ナマズ、オオクチバス、ウグイ、ニゴイなど)の捕獲調査を進めることで、水晶体における餌履歴分析用のサンプルを採集したいと考えている。 1年間の両側回遊性生物の遡上量、遡上期間の定量調査後に、両側回遊性生物、及び河川生態系の捕食者の水晶体においてイオウの安定同位体比分析を行うことで、海洋由来資源量や輸送期間と捕食者の海洋由来資源の依存度との関係を明らかにしたいと考えている。
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