2023 Fiscal Year Research-status Report
逃避行動を環境変化に適応して調節する神経メカニズムの解明
Project/Area Number |
22KJ1999
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
司 悠真 京都大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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Keywords | 環境ストレス / ショウジョウバエ / 中枢ニューロン / 痛覚 / 浸透圧 / 情報統合 / 神経ペプチド / 内部状態 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、様々な環境ストレスを統合し、逃避行動を調節する神経回路基盤と細胞生理メカニズムを明らかにすることである。われわれは、ショウジョウバエ幼虫の中枢ニューロンの痛覚応答におけるbelly roll(bero)遺伝子の重要性を明らかにし、その成果を国際学術誌でオープンアクセス論文として発表した(Li et al., eLife, 2023)。本研究において、報告者はbero遺伝子の発現阻害下で中枢ニューロンの神経活動を観察し、bero遺伝子が中枢ニューロンの痛覚刺激に対する応答を抑制する機能をもつことを明らかにした。さらに、この中枢ニューロンが産生する神経伝達物質の探索を行い、哺乳類におけるノルアドレナリンに相当するオクトパミンまたはチラミンを産生することを発見した。本研究成果は、プレスリリースとして一般向けにも紹介されている(https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2023-06-14-1) 報告者はさらに、中枢ニューロンの痛覚刺激に対する応答が体液浸透圧によって調節されることを発見し、このニューロンが体液浸透圧と痛覚刺激を統合する神経メカニズムを、明らかにしてきた。中枢ニューロンにおける浸透圧と痛覚の情報統合にはBeroが必須である。さらに、Beroの機能的な標的候補を探索し、神経ペプチド受容体を同定した。本年度は、中枢ニューロンにおける神経ペプチド受容体の機能解析を中心に、個体の内部状態依存的に神経活動が調節されるメカニズムを検証した。これらの研究成果は各学会で発表している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は予定通り、神経ペプチド受容体が活性化されるメカニズムについて検証し、Beroが重要な働きを果たすことを明らかにできた。また、本年度は体液浸透圧を上昇させる環境ストレスである乾燥ストレスに動物を暴露し、行動がどのように調節されるかを検証した。当初の期待通り、乾燥ストレス処理は寄生蜂の攻撃を回避するための逃避行動を促進することを明らかにした。 一方、本研究を実施中、想定外にもショウジョウバエ幼虫が乾燥した表面から逃れる忌避行動(乾燥表面忌避行動)を示すことを発見した。そして、この行動も乾燥ストレス処理によって促進されることを見い出した。詳しい解析から、この乾燥表面忌避行動は、報告者が解析していたbero遺伝子を発現する中枢ニューロンによって制御されていることが示唆されている。乾燥表面忌避行動は現在のところ報告された例がなく、この点でも当初の期待を大きく上回っていると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
上述した通り、現在までの進捗状況は当初の計画を大きく上回っている。そこで、本研究の目的である「環境ストレスを統合し逃避行動を調節するメカニズムの解明」という方針に加えて、報告者が新たに発見した乾燥表面忌避行動を調節する分子メカニズムを解析するとともに、その進化生態学的な重要性を検証する研究を実施したいと考えている。そのために、キイロショウジョウバエと多様な環境に生息するショウジョウバエ近縁種群との間で、乾燥表面忌避行動の観察と行動関連遺伝子の発現パターンの比較解析を実施する予定である。これらの研究成果を報告するために、原著論文を執筆し発表する。
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Causes of Carryover |
研究計画の変更があり、主に物品費の使用に予定していた予算に差額が生じた。 差額分は次年度にショウジョウバエ系統作製費として利用する予定である。
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