2022 Fiscal Year Annual Research Report
現代フィリピンにおける民主化のパラドックスと暴力的ポリシング
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22J23360
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
瀬名波 栄志 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | フィリピン / ポリシング / 社会運動 / 運動弾圧 / チャネリング |
Outline of Annual Research Achievements |
Mobilization誌に投稿予定の論文、「EXPLORING THE IMPACT OF MOVEMENT REPRESSION UNDER THE DEMOCRATIC REGIME: The Process of Channeling to Toleration Over the 2013 Anti-Corruption Movement in the Philippines」の執筆のための研究に研究時間の大半を割いた。本論文はアキノ政権(2010から2016年)が政策決定者として用いた社会運動弾圧手段のひとつである「コミュニケーション・チャネリング」の存在を明らかにし、そのインパクト、そしてそのアキノ政権自身へのインパクトを計測した。この論文を執筆するためにMobilizationやSocial Movement Studiesといったトップジャーナルの論文を読み、運動弾圧研究、なかでも通常の運動弾圧に比べて密かに、非直接的に社会運動に影響を与えるチャネリングの研究を整理した。チャネリングの事例研究は70年代以降蓄積されてきており、Earl(2003)がチャネリング研究を整理したもののいまだに研究は不足している。その点、フィリピンという東南アジアの一国を扱い、チャネリングの事例を明らかにした本研究の貢献は大きい。また、Tillyなどの比較的古い理論的著作の価値を再考したことで新しい理論的視座が芽生え、チャネリングを単なる運動弾圧の一種としてではなく、チャネリングは抑圧的アクションであるものの、他の運動弾圧に比べ、より寛容的アクションに近いものであり、時には寛容的アクションに移行するものであるともわかった。本研究はTillyの抑圧・寛容・促進・強制モデルを裏付けるものだが、今までこのTilly発の図式のなかにチャネリングを位置付けた研究はなかった。政策決定者が運動弾圧という手段を取ることと運動に寛容的態度を取ることとは分断されておらず連続していると見ることができると理論的にも、本研究の事例からも明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
10月までは京都大学東南研図書館の文献などを利用し、資料調査、先行研究調査を中心に研究を進めた。 理論系の先行研究の整理も行うなかで、社会運動弾圧研究において民主主義体制下におけるコーション(抑圧)に比べてチャネリングの研究が不足していることを明らかにした。 事例にかんしては主に民主化後のフィリピンにおけるポリシング、社会運動、運動弾圧などを扱う研究を中心に整理した。フィリピンのポリシング、社会運動、運動弾圧を扱った研究はほとんどがマルコス独裁政権下のものであったため、民主化以降の研究はいまだ不足していた。一方でドゥテルテ政権下の麻薬戦争にかんする研究は数多くあったため、20年ほどの研究のブランクが存在することがわかったため、このブランクを埋めて民主化以前・以後を連続して語ることのできる研究が必要であることがわかった。 また、10月のフィリピン渡航以降はマニラ首都圏に滞在し、フィリピン大学ディリマン校図書館での資料調査のほか、政権中心部にいたキーパーソンや活動家へのインタビューを行って、それらのインタビューデータをコーディングして整理した。研究所のメンバーと研究にかんして議論する機会も多く、彼らのコメントから多くの示唆をもらうことができた。 これらの調査結果をまとめ、Mobilization誌に投稿予定の論文の第一稿を仕上げた。本論文は2013年のアキノ政権下による反汚職運動へのアクションの転換(チャネリングからのトレレーションへの転換)を扱った論文で、民主化後における社会運動弾圧のあり方を明らかにした点で既存の社会運動理論、そしてフィリピン政治理解への貢献が大きい。民主化以前、以後、そしてドゥテルテ政権登場までにあるアキノ政権下の運動弾圧のあり方を明らかにすることで、あらためてフィリピンのポリシング、社会運動、運動弾圧を通時代的に語ることに貢献した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は今回執筆中の論文を校正するほか、ポリシングにかかわる新しい課題にも取り組みたい。具体的にはアジア最古の大学と言われるサント・トマス大学における2002年の学生運動と運動弾圧である。フィリピンでは1986年の民主化以前から全大学生に対して予備役将校訓練過程(ROTC)という軍事訓練が義務付けられていたが、教官による学生への賄賂の要求など腐敗が問題となってきた。この予備役将校訓練過程の腐敗を受けてサント・トマス大学の学生新聞であった「The Varsitarian」紙が1999年に紙面上で腐敗を告発したほか、2001年には学生新聞を通じて二人の学生が訴えを起こしたことで、フィリピン大学といった他の大学の学生運動も続く大規模な反備役将校訓練過程運動が生まれた。また、運動が盛り上がる最中に腐敗を紙面上で告発した学生の一人がサント・トマス大学の予備役将校訓練過程の教官らによって殺害されたことで運動が大きく盛り上がり、結果的に予備役将校訓練過程は非義務化された。本研究ではこの反予備役将校訓練過程運動にどのようなポリシングが加えられたのか、またなぜ一人の学生が殺害されなければならなかったのか、そしてなぜ運動はポリシングにもかかわらず最終的にその目的を達成できたのかを明らかにしたい。
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Research Products
(1 results)