2021 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21J20215
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
福永 耕人 大阪大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 7月20日事件 / ドイツ連邦軍 / 抵抗 |
Outline of Annual Research Achievements |
当初計画していたドイツでの現地調査は、新型コロナウイルスの感染状況に確たる改善が見られなかったため不可能と判断し、2021年度はオンラインでの史料収集および研究の方法論を精査することに注力した。 オンラインでは、連邦軍のあり方をめぐって1960年代後半から70年代初頭に軍内部でなされた論争についての一次史料を、入手することができた。これは、連邦軍がヒトラー暗殺未遂事件(7月20日事件)を受容するに際して、その思想的基盤を提供したヴォルフ・グラーフ・フォン・バウディッシン将軍と、彼と対立していたアルベルト・シュネツ将軍をはじめとする保守派との間で行われたものである。 史料からは、バウディッシンらと保守派の軍人たちは、ある部分では意見を違えつつも、すべての面で対立していたわけではなく、同意し合う点もあったことが確認できた。特に、当時「反動的」との批判にさらされていた保守派も、バウディッシンらの提唱する連邦軍の民主主義的なスタンスの一部は肯定しており、こうした保守派のある種の柔軟性は、7月20日事件の受容の際にも大きく影響した可能性があるため、引き続き検討の対象とすることにした。さらに年度末には、重要な一次史料になると期待できる軍隊向けの雑誌Alte Kameradenのバックナンバーが、古書として購入可能であると判明した。 方法論の面では、冷戦期という時代的背景を研究に盛り込むことが、非常に重要になると思われたので、東側による暴動煽動に対する西ドイツ政府の危惧や、国際情勢における西ドイツの軍事的立ち位置について検討し、より論証に説得力を付与することができた。 また、イェルク・ムートによるコマンドカルチャーへの考察に代表される比較文化史的な軍隊研究や、ハンチントンやベルクハーン等による政軍関係論も、軍隊を対象とする本研究に有益であると考えられるので、新たに参照した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度、研究計画にはやや遅れが生じた。それは、主として二つの要因から来たものである。一つ目の原因は、当初の研究計画で予定していたドイツの文書館等での現地調査を、新型コロナウイルスの流行継続により断念したことであった。そのため、希望していた史料を入手することができず、結果として計画の遂行に幾分か支障を来した。オンラインを通じて収集できたものもあったが、十分な量とは言い難かった。 また二つ目の要因としては、方法論について検討するのに予想よりも手間取ったことが挙げられる。試行錯誤する中で、東西冷戦に注目するあまり、考察が西側陣営内の政治外交史にやや傾斜しすぎたところがあった。ドイツ連邦軍という本来の検討対象がぼやけてしまう恐れを感じたので、これは年度の後期に軌道修正した。その結果、冷戦はもちろん重要ではあるが、それはあくまで背景としてであって、主たる連邦軍に対して、従として取り扱うべき事象であるとの結論に至った。 こうした障害はあったものの、年度を通じて複数の研究会にオンラインで参加し、ここでは他のドイツ史研究者からコメントや助言を受け、今後の研究の方向性を見定めることができた。そして年明け以降には、研究報告の機会も得られたため、上記の研究をとりまとめて、計3度の口頭発表を行った。まず「大阪大学西洋史学会 若手セミナー」で、それまでの研究を総括し、この場でのフィードバックを参考にしてより内容を洗練させ、続く「ドイツ現代史研究会」での報告に臨んだ。その後さらに「草津の会」でも報告を行い、これらの場では出席者から、未見の先行研究および一次史料に関する有用な情報を提供された。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度に実行できなかったドイツの文書館等での現地調査を行う予定である。ドイツの新型コロナウイルスの感染状況は現在、改善しつつあるため、2022年度は(ウクライナ戦争がEU領域に拡大しない限り)渡航できるであろうと考えている。この調査では、フライブルク・イム・ブライスガウの軍事文書館等を訪問し、史料を収集する。実施時期としては、2022年度の後期を計画している。 これと並行して、オンラインで古書として購入可能な軍隊向け雑誌等の史料を発注し、年度を通じてその分析を行う。 またこれらの研究の成果を、秋に広島大学で報告する予定である。
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