2022 Fiscal Year Annual Research Report
ベトナム語の音韻の実験的研究:諸方言の音節・韻律に着目して
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22J00863
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
山岡 翔 大阪大学, 人文学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | ベトナム語 / 音節 / 教育 / 少数言語 / 声調 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は今後、本研究課題の分析対象であるベトナム語北部方言の発話韻律データ、およびベトナム語中部・南部方言の音節単独発話データを収集すべく、まず日本在住のベトナム人との関係構築に尽力した。ベトナム現地ではなく日本で調査協力者を探すこととなったのは、MRI撮像や人工口蓋床をもちいた舌の口蓋接触部位といった類のデータはベトナム現地での収集に難があるためである。結果、北部方言話者10名程度、中部方言話者5名程度、南部方言話者5名程度との関係構築に成功した。また、それと同時に音声生理実験に伴う倫理審査関係書類の準備を進めた。 つぎに、ベトナムにおける研究者との新たな共同研究も開始した。具体的にはベトナム語教育という音声の隣接分野に関する共同研究のほか、ベトナムに分布する少数言語の共時的体系を実験音声学的に記述するという、本研究が将来的に成果還元をより広く大きいものにするための足掛かりとなりうる内容である。 また、同時にこれまでの研究成果で未発表のものの公表を国内外の学会にて行った。さらに、博士論文の内容にもとづいた単著の出版により、自身のこれまでの研究成果を幅広い読者層にむけて公表するに至った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初は科研費にて実験音声学的機器を国外から早期に購入し、これまで計測できなかった類の生理的音声パラメータの収集を行う予定であったが、当該年度の前半は記録的な円安により科研費内定額では取引額が賄えず、極端な円安傾向が落ち着くのを待ってから取引を開始せざるを得なかった。そのため、機器が日本に到着したのが年度末となり、この新しい機器によるデータ収集、およびこの機器を用いた実験研究にかかる倫理申請は大幅に遅れることとなった。ただし、機器が届くまでの期間をもちいて、あらたにベトナムの少数言語の音声音韻に関する実験的研究を進め事ができたため、予想外の研究成果も得られた。この状況を総合的に勘案して、当該研究課題の進捗状況を「やや遅れている(が、当初予想していなかった成果も得られた)」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は新たな機器の使用を含めた研究計画をもとに倫理審査申請を速やかに行い、これまでに関係を構築できた日本在住あるいはベトナム現地在住のベトナム人を対象として各種音声データの収集を行う。そしてその音声データを分析し、北部方言の韻律および中部・南部方言の音節に関する考察を進め、順次成果を公表していく。データの分析に際しては音響データのアノテーションなど、ひとりでは早期に完了できないものは、外部委託をする、できる限り自動化するなどして、早期に終えられるように努める。 収集したデータは次の点に着目して考察を進める。中部・南部方言の音節に関しては、まず頭子音と韻の時間的補償関係の有無についてみた後、韻部ないし音節全体の時間的構造について仮定したあと、音素単位の分析を進める。北部方言の韻律に関しては、既知の音節の時間的構造が、複音節発話の際どのように実現するのか、そしてフットや音韻語、イントネーション句といった音節より上位の韻律的単位をベトナム語において認める必要はあるのかといった点に着目して考察を進める。 また、同時に収集したデータを幅広く公開すべく、分析が終了したデータを言語アーカイブに登録するための作業も進めていく。
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