2023 Fiscal Year Research-status Report
ベトナム語の音韻の実験的研究:諸方言の音節・韻律に着目して
Project/Area Number |
22KJ2104
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
山岡 翔 大阪大学, 人文学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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Keywords | ベトナム語 / 中部方言 / 南部方言 / 音節 / 音響音声学 / 調音音声学 / 声調変化 / パテン語 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は夏季に行ったベトナムでのフィールド調査によりベトナム語中部・南部方言の音節内部構造についてのデータを得て、そのデータの分析を進めていった。このフィールド調査ではベトナム語中部方言話者15名、ベトナム語南部方言話者17名が、約 200 種類の音節を単独で読み上げた際の音声波形と EGG 波形を得ることができた。現在、各話者の正規化値の特徴をもとに、話者ごとの発音を分類し、グループごとに正規化値を平均する方針で分析を進めている。 他方、研究計画段階では想定していなかった知見が思いがけず得られた。自身が今年度に参加した国際学会で知った曲線声調の歴史的変化の通時的傾向についての仮説をもとに、手元にあるベトナム語北部方言の声調の個人差を分析したところ、若年層と高年層の間で声調に変化が起こっていることが示唆された。さらにこの言語の声調の音響データを可能な限り遡ったところ、ピッチターゲットのみからなる声調の変化は上述の通時的傾向と適合する一方、喉頭化ターゲットをもつ声調は、上述の傾向とは適合せず、むしろ喉頭化のもつ stiffness によりピッチが引き上げられていることが示唆された。この内容については研究発表および論文投稿を行った。なお、研究発表については大会発表賞という形で客観的な評価も得られた。 そしてベトナム語の研究と並行して、昨年度から取り組んでいるパテン語の音声音韻体系についても引き続き研究を進めた。夏季に行ったベトナム語の調査の合間にパテン語の調査も併せて行い、パテン語話者から 3000 語程度の基礎語彙を発音した音声と IPA 表記を得た。また、パテン語のいくつかの音節を発した際の EGG 波形のほか、超音波エコーによる正中矢状面の舌形状に関するデータも得ることができた。ここで得られたデータの中には声質に関する珍しい最小対が含まれており、それを題材に研究発表も行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の計画ではベトナム語南部方言や中部方言の音節内部構造の研究は今年度までに目途をつける予定であったが、コロナ感染状況の事情などにより当初の予定からかなり遅れて本年度の夏にようやくフィールド調査が行われることとなったことや、データを収集した後に当初予定していた分析方法をそのまま適用すると問題があることが明らかになったことにより、現在も引き続きデータの分析作業を行っている最中である。データに分析方法について具体的に言うと、研究計画段階では収集した音響データから必要なパラメータを抽出し、話者間正規化したうえで方言ごとに平均をとることで、各方言に通底する音声特徴をあぶりだそうと考えていた。しかし、実際に得られたデータには、同一方言の話者間であってもかなりの程度の個人差が認められたため、単に正規化値の平均をとるだけでは方言の特徴を観察するのに不十分であることが予見された。そのため、このような個人差を考慮しながら方言話者に共通する特徴をあぶりだす方法を確立する必要に迫られている。現状は各話者の正規化値の特徴をもとに、話者ごとの発音を分類し、グループごとに正規化値を平均する方針で分析を進めている。 以上のような理由によりやや進捗は遅延しているといえる。ただし、研究計画段階では想起していなかった研究内容について、思いがけずよい結果が得られた面もあった。具体的には、参加した国際学会で新たに知った声調変化に関する理論をすでに手元にあったデータに適用したところ、声調変化の傾向に関する新規性のある指摘ができたというもので、この内容は研究発表賞という形で客観的な評価も得られている。そのため、研究課題全体としての進捗は遅延しているものの、得られた結果はそれなりに多かったと評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はできるだけ早期にベトナム語南部方言・中部方言のデータを分析し、これらの方言の音節内部構造についての研究を推進することである。また、少なくとも夏季にはベトナムへ再度フィールド調査に行き、本研究課題のもうひとつの軸であるベトナム語北部方言の韻律構造に関するデータを収集し、そちらもできるだけ早く分析を進めていく。夏季のフィールド調査でデータを収集しきれなかった、あるいは取りこぼしたデータがある場合は、さらに冬季にもフィールド調査を実施する。
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Causes of Carryover |
データ分析の人件費として予定していた金額が、研究進捗の遅延および分析方法の変更によりまだ使用されていないため。この金額は次年度のしかるべき段階で使用することを予定している。
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