2022 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22J10233
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
小西 洋子 大阪大学, 大学院人文学研究科(人文学専攻、芸術学専攻、日本学専攻), 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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Keywords | 国文学 / 平安中期 / 浄土思想 / 和漢 / 注釈 / 日本史 / 法会 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、平安中期の儒者、慶滋保胤の作成した追善願文に焦点を当て、浄土信仰形成期の仏教界の趨勢や貴族社会における浄土思想の受容の在り方を明らかにする。同時に、願文には故人の身分に応じた型があることを見出し、その中で作者の独自性がいかに反映されるのかという点を読み解くものである。 本年度は、7月に、1「慶滋保胤「為大納言藤原卿息女女御四十九日願文」における『往生要集』の思想」という題で学内研究会にて発表を行った。また9月に、2「慶滋保胤「為大納言藤原卿息女女御四十九日願文」の位置付け―人道と天道の否定に見る『往生要集』の思想―」という題で学会発表を行った。これらは、2023年4月に、3「「慶滋保胤「為大納言藤原卿息女女御四十九日願文」考―『往生要集』の受容―」という論文として刊行される予定である。これらは、保胤の「為藤原卿息女女御四十九日願文」に、保胤と親交の深い天台僧源信の著述『往生要集』が受容されていることを論じたものである。 12月には、4「慶滋保胤「為大納言藤原卿息女女御四十九日願文」考―型の継承と対句表現の独自性について―」という論文を学内誌に公表した。これは、「為藤原卿息女女御四十九日願文」が、先行願文の型を継承していることを明らかにしたものである。 2月には、5「「高唐賦」と仏教思想 ―空海・道真の願文を中心に―」という題で学内研究会にて発表を行った。これは、3「「慶滋保胤「為大納言藤原卿息女女御四十九日願文」考」の補足的な論である。 以上は、「貴族社会における浄土思想の受容の在り方を明らかにする」、「願文にはその場に応じた型があることを見出し、その中で作者の独自性がいかに反映されるのかという点を読み解く」に即した成果である。ただし、保胤の作成したもう1首の願文、「為二品長公主四十九日願文」の型を検討できなかった。これは次年度の課題としたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
保胤の作成した願文は、①「為二品長公主四十九日願文」(故人:尊子内親王(花山天皇の同母姉))、②「為藤原卿息女女御四十九日願文」(花山天皇女御藤原シ子)の2首が伝存している。 「浄土信仰形成期における貴族社会の浄土思想受容の在り方」については、両願文にはいずれも源信『往生要集』が受容されていることが明らかになった。両願文は『往生要集』の完成直後に作成されている。『往生要集』は、その後の貴族社会に絶大な影響を与えるが、保胤の願文がその嚆矢になっていたといえ、その具体的な様相を見出すことができたといえる。 願文の「故人の身分に応じた型」については、②「為藤原卿息女女御四十九日願文」が、故人が女御の願文の型を継承しており、「為左大臣息女女御修四十九日願文」(故人:村上天皇女御藤原述子、施主:父藤原実頼)の系譜にあることを明らかにできた。 また、このような型の中で「作者の独自性がどのように反映されているのかという点」は、②「為藤原卿息女女御四十九日願文」における『往生要集』の受容がそれを示している。保胤自身は、浄土信仰に傾倒しており、『往生要集』の作者源信と親交が深かった。その源信の著述を受容している点に保胤自身の浄土信仰が反映されていることが分かった。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、慶滋保胤の作成した追善願文の読解を通して、「故人の身分に応じた型」と「貴族社会における浄土思想の受容の在り方」について検討する。保胤の作成した①「為二品長公主四十九日願文」(故人:尊子内親王(花山天皇の同母姉))、②「為藤原卿息女女御四十九日願文」(花山天皇女御藤原シ子)の2首の願文のうち、今後は、①は故人が内親王の型の系譜上にあることを明らかにしたい。 「貴族社会における浄土思想の受容の在り方」は、①、②の故人は花山天皇の近親者であることに着目する。①、②は同時期の作であるが、保胤は両願文を作成した翌年に出家し、花山天皇も保胤の出家の2ヶ月後に出家する。また、保胤と花山天皇は出家後、天台僧源信らと共に姫路の書写山円教寺の性空を訪問している。保胤・源信・花山天皇・性空の関係を精査し、花山朝の貴族と僧侶の具体的な交流の様相を探ることを予定している。
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