2022 Fiscal Year Annual Research Report
神経回路トレーシングと遺伝子発現解析によるクロザピンの治療メカニズムの解明
Project/Area Number |
22J13200
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
平戸 祐充 大阪大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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Keywords | 統合失調症 / クロザピン / 神経回路 / 治療メカニズム |
Outline of Annual Research Achievements |
統合失調症に対するクロザピンの薬物治療メカニズムには現在も不明な点が多い。クロザピンが標的とする複数種類の受容体は、いずれも脳の広範な領域に発現し、各受容体の間で発現部位や細胞種、発現量が異なるため、受容体に対する薬物の親和性などの情報のみでは薬効に関わる細胞や神経回路レベルのメカニズムを理解することは困難である。本研究では、クロザピンにより神経活動が変化する細胞・神経回路を特定し、その細胞・神経回路の機能と、薬物による行動変化の関係を解明することを目的としており、今年度は以下の成果を得た。 ①クロザピン反応性細胞の軸索投射先の解析 クロザピンにより活性化する内側前頭前皮質(mPFC)の細胞の神経回路構造を詳細かつ定量的に解析するため、全脳イメージング技術FASTで得た上記細胞の軸索投射画像を用いて、定量的解析方法の検証と溶媒投与群との比較を行った。その結果、クロザピンにより、視床背内側核(MD)と視床内側腹側核において、蛍光標識された軸索の平均輝度が高かった。また、クロザピン反応性のmPFC神経細胞の軸索投射パターンをより詳細に明らかにするため、MD等に逆行性トレーサーを注入し、クロザピンによるc-Fos陽性細胞数を投射先別に定量した結果、MDに投射するmPFCの細胞はc-Fosを発現する傾向にあった。 ②統合失調症モデルマウスの作製 クロザピンにより活性化するmPFCの細胞の軸索投射先を特定した後、統合失調症様の行動や組織学的異常を示すモデルマウスを用いて、上記神経回路を選択的に活性化した際の治療効果を検証する。そこで、新生仔期の野生型マウスにNMDA型グルタミン酸受容体拮抗薬MK-801を慢性投与し、統合失調症の病態仮説を反映した疾患モデルマウスを作製した。その結果、作製したマウスは、行動試験における認知機能障害と、mPFCパルブアルブミン発現細胞の密度低下を示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
全脳イメージングデータの定量的な解析において、クロザピンにより活性化するmPFCの細胞について、一つの細胞から軸索が分岐して複数の脳領域を活性化するのか、軸索の投射先の異なる細胞サブタイプの複数種類が活性化するのかをまず明らかにする必要が生じた。そこで今年度は、クロザピン反応性のmPFCの細胞が形成する神経回路構造の詳細かつ定量的な解析と逆行性の細胞標識を用いた解析を実施し、視床背内側核に投射するmPFCの細胞が、クロザピンにより活性化することを見出した。 また、並行して、統合失調症様の行動学的・組織学的異常を示すモデルマウスを作製した。 以上より、クロザピンにより神経活動が変化する細胞・神経回路の機能と、薬物による行動変化の解明に向けて実施する、回路特異的な活動操作実験の検討において、標的とする神経回路の詳細な情報と実験で用いる疾患モデルマウスの作製条件を得られたと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度に引き続き、逆行性トレーサーを用いて、MD等に投射するmPFCの細胞を標識し、クロザピンによるc-Fos陽性細胞数を投射先ごとに定量する。本検討で得られる結果と、全脳イメージングで得た軸索投射画像の定量的解析の結果から、クロザピン反応性のmPFC神経細胞の軸索分岐パターンの詳細を明らかにしたい。 また、上記の解析で特定した神経回路の機能と、薬物による行動変化の関係を明らかにするために、DREADDやCre-loxP組換えを利用したアデノ随伴ウイルスベクターと統合失調症モデルマウスを用いて、回路特異的な活動操作実験を実施したいと考えている。
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