2022 Fiscal Year Annual Research Report
毛包の上皮―間充織相互作用を制御する細胞外環境の解明とin vitro再構築
Project/Area Number |
22J13244
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
待田 大輝 大阪大学, 医学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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Keywords | 細胞外マトリックス / 毛乳頭細胞 / ラミニン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、細胞外マトリックスの詳細な組成解析に基づき、毛乳頭の周囲環境の解読と、そのin vitro再構築を目指している。当該年度は、毛乳頭の周囲環境を構築する細胞外マトリックス(ECM)の探索と、毛乳頭とECMの接着メカニズムについて研究をすすめた。まず、マウス皮膚とヒト皮膚を対象にした免疫組織染色により、ダイナミックな毛包の再生周期を通して毛乳頭の周囲環境は、常に間質系のECMではなく、基底膜のECMで構成されていることを明らかにした。さらに、ヒト皮膚のscRNA-seqデータを用いて毛乳頭細胞が発現するECM分子を探索し、毛乳頭細胞ではシグナル液性因子の伝達に関わる分子が多く発現していることが分かった。次に、毛乳頭が発現しているECM受容体を探索するため、ECM受容体の遺伝子発現をscRNA-seqで、培養毛乳頭細胞の表面上のECM受容体をFACSで探索した。その結果、毛乳頭細胞はラミニン認識型のインテグリンの発現が他の線維芽細胞と異なることが明らかになった。これらの結果から、毛乳頭細胞は線維芽細胞の細胞系譜にもかかわらず、基底膜分子と相互作用することで、毛再生能を発揮していると考えた。そこで、培養毛乳頭細胞とECM蛋白質との接着活性を調べた結果、毛乳頭細胞は周囲環境を構築しているラミニンに対する接着活性が弱かった。これらの結果は、毛乳頭の周囲には接着活性の弱いラミニンが沈着している可能性を示唆している。今後は、接着活性の弱いラミニンが毛乳頭細胞に与える影響を解明し、その知見に基づく毛乳頭細胞の培養系を確立する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度までの研究で、休止期のマウス毛乳頭は、線維芽細胞の系統にも関わらず、周囲環境が間質系の細胞外マトリックス(ECM)ではなく、基底膜のECMで構成されていることを明らかにした。当該年度は、毛乳頭細胞と周囲ECMとの接着メカニズムについて解析をすすめた。まず、ダイナミックな毛包の再生周期における、基底膜分子の局在パターンを解析し、ラミニンα4が恒常的に毛乳頭の周囲環境を構築していることを確認した。次に、ヒトの皮膚においても、マウスと同様の基底膜分子が毛乳頭の周囲環境を構成していることを確認した。さらに、ヒト皮膚のscRNA-seqデータを用いて毛乳頭細胞が発現するECM分子を探索し、毛乳頭細胞ではシグナル液性因子の伝達に関わる分子が多く発現していることが分かった。一方で、毛乳頭の周囲にあるラミニンの遺伝子発現は低く、これらラミニンは他の細胞から提供されていることが示唆された。この結果は、従来の毛乳頭細胞の培養系では、周囲環境を構築しているラミニンが再現されていない可能性を示している。次に、毛乳頭が発現しているECM受容体を探索するため、ECM受容体の遺伝子発現をscRNA-seqで調べると、7つのECM受容体が高発現していた。さらに、培養毛乳頭細胞の表面上のECM受容体をFACSで探索し、毛乳頭細胞はラミニン認識型のインテグリンの発現が他の線維芽細胞と異なることを確認した。そこで、培養毛乳頭細胞とECM蛋白質との接着活性を調べた結果、毛乳頭細胞はラミニンα4に対する接着活性が弱かった。以上の結果は、毛乳頭の周囲には接着活性の弱いラミニンが沈着している可能性を示唆している。これは当初予定していた研究計画の予想を覆す研究結果であり、ECMと細胞の相互作用に新たな視点をもたらす研究成果に繋がる可能性が浮上してきた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、細胞接着活性の低いラミニンが毛乳頭に最適な細胞外環境を提供するメカニズムの解明に向け、研究をすすめていく。特に、毛乳頭細胞の活性や、毛乳頭が細胞凝集塊として維持される機構に、基底膜分子が関与していると考え研究を進めていく。方法は、ハンギングドロップ法で毛乳頭細胞を凝集塊にする実験系に、精製ECMタンパク質を添加し、毛乳頭細胞の増殖と活性、遺伝子発現の変化を解析する。毛乳頭細胞は高いアルカリフォスファターゼ活性を有し、この活性は毛再生能と関連すると言われている。そこで、アルカリフォスファターゼ染色で毛乳頭細胞の活性が維持されているか検証する。さらに、RT-PCRで毛乳頭が分泌する増殖因子の遺伝子発現が変化しているか調べる。また、精製ECMタンパク質を付加して作成した毛乳頭細胞の凝集塊をコラーゲンゲル中に置き、毛乳頭細胞が凝集塊から拡散する方向へ移動するか観察する。これら実験によって、毛乳頭周囲の細胞接着活性の低いECMが毛乳頭細胞に与える影響を解明する。さらに、毛乳頭細胞の培養に適したECMの添加濃度を決定し、ECMを用いた毛乳頭細胞の培養系を確立する。
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