2022 Fiscal Year Annual Research Report
清代から民国初期にかけての四川省移住民社会における社会的上昇と砂糖生産
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22J20156
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
岡田 悠希 大阪大学, 大学院人文学研究科(人文学専攻、芸術学専攻、日本学専攻), 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | 清代 / 中華民国 / 砂糖 / 移住民社会 / 四川省 / 客家 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はまず、移住民社会であった四川省で清代から民国期にかけて行われた糖業について、特に砂糖生産と移住・開発の関連性に着目し研究を行った。その結果、一般に水田耕作が行われる土地と、サトウキビ栽培が行われる土地では、河川との距離や土壌の質、傾斜角度などが異なっていることを見出した。多くの移住者とその子孫たちは比較的安全な水田耕作に適した土地の購入を目指す傾向にあったのに対し、比較的移住時期の遅かった福建や広東からの客家系宗族は、水田耕作には不向きな土地でサトウキビという商品作物栽培に携わり、社会的上昇の機会を得ていったと考えられる。 さらに、19世紀から20世紀初期における四川糖の流通域について、各種調査報告書や日本人の記録、海関報告などを収集・整理した。その結果、当該時期の四川糖は、中国内陸部を中心に、従来指摘されていた以上に広い地域へともたらされていたことが明かになった。特に、外国糖流入や糖税の徴収額増加によって生産量が減少し始める20世紀初頭以前には、その流通域が中国沿海部にまで及んでいた可能性がある。 また、11月末からは、宮崎県でフィールドワークを行い、現地の製糖組合にて実際にサトウキビ収穫や江戸時代から続く黒糖づくりを取材・体験した。その結果、文献資料では理解できなかった砂糖づくりの具体的な工程について深く理解することが出来、さらには日本と四川省における砂糖生産技術の類似性について新たな気づきを得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は当初の計画通り、各種データベースを活用しつつ、国内での史料収集を行った上で、修士論文の内容を基にした論文の執筆・学会報告を行った。 砂糖生産と移住・開発についての内容は、清代档案史料研究会(「清代四川省における移住開発と甘蔗栽培」、オンライン開催、日本、研究会、7月30日)で報告した。論文はすでに『史学雑誌』に投稿済みであり、現在は審査結果待ちである。次に、四川糖の流通域についての内容は、若手ユーラシア史研究会(「清末民国初期における四川糖市場について」、オンライン開催、日本、研究会、10月30日 )及び第120回史学会大会東洋史部会(「清末民国初期における四川糖市場について」史学会、東京大学、日本、国内学会、11月13日)で報告を行い、いただいた様々な意見をもとに現在論文執筆を進めている。 さらに、当初予定していた宮崎でのフィールドワーク(2022年11月28日~12月7日)もまた、新型コロナ感染症に十分に配慮した上で、問題なく遂行することが出来た。ただし、10日間の調査のみでは砂糖を煮詰める釜の構造や、洗練された煮糖の技術について十分に理解することは困難であっため、追加の調査を行う必要が生じている。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度も引き続き学会報告・論文の執筆と並行しつつ、史料収集とその分析を行う。 今年度の研究成果を踏まえ、今後は①サトウキビ栽培が行われていた川沿いの低地に関する土地売買の実態、②四川糖の流通に携わっていた担い手の特定、③具体的な砂糖消費の在り方、④客家系移住者たちの社会的上昇の過程について分析を深める必要がある。①及び②については、地方志の他にも、現在の重慶で作成された裁判文書である『巴県档案』の分析が有用であると考えており、すでに関連する案件の整理を進めている。『巴県档案』の収集については、国内の大学の他に、8月に台湾の中央研究院への訪問を検討しており、可能であれば四川省档案館に訪問する。③については、各種の新聞史料や料理書、医学書などを収集・分析する。④については、四川省大学図書館へ訪問し族譜史料を収集することが望ましいが、新型コロナ感染症などの影響により渡航が困難である場合は、各種データベースの利用や大学図書館を通じた取り寄せなどを行い国内での史料収集を優先して行う。 四川糖流通・消費に関する内容は、社会経済史学会全国大会で(「中国内陸部における一大砂糖市場の存在」社会経済史学会、西南学院大学、5月27日)、四川省における砂糖生産と客家系移住民の関係については、京都大学人文研研究班「近現代中国の制度とモデル」班例会で(「清末四川省における糖業の隆盛と客家系移住者」京都大学、6月2日)報告予定である。他にも、中国語・英語での報告を検討している。報告と並行して論文を執筆し、国内査読誌に投稿する。 また、冬季には四川省でフィールドワークを行い、実際の砂糖生産の様子を取材・見学する予定である。ただし、新型コロナ感染症などの影響により渡航が困難である場合は、昨年度に引き続き、九州での追加調査を行う。
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Research Products
(3 results)