2022 Fiscal Year Annual Research Report
アーク溶接における溶融金属の不安定挙動の理解に基づく可変熱源指向性の発現
Project/Area Number |
22J20249
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
佐藤 祐理子 大阪大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | ガスメタルアーク溶接 / 溶滴移行 / アークプラズマ / 表面張力 / 溶融金属ジェット |
Outline of Annual Research Achievements |
アーク溶接において、高温アークプラズマ雰囲気にワイヤ消耗陽極を逐次供給すると、ワイヤは溶融し溶融金属ジェットを形成する。溶融金属ジェットは、アークプラズマおよびワイヤ消耗陽極を貫く直流電流が形成する自己誘導磁場と相互に作用して分裂し、溶融金属滴(溶滴)を連続生成する。溶融金属ジェット分裂現象において、電磁力・慣性力・表面張力の3種類の駆動力バランスが変化すると分裂形態が遷移して溶滴の生成特性が劇的に変化する。本研究の目的は、各駆動力の相対的強さを定量的に評価し、分裂形態の遷移メカニズムを解明することである。本年度は、電磁力と慣性力がそれぞれ分裂挙動に与える影響を実験アプローチに基づき調査した。電磁力は溶接電流に、慣性力はワイヤ供給速度に支配されることから、溶接電流とワイヤ供給速度を独立に制御可能な装置を構築した。本研究では信頼性の高い熱物性データを入手可能かつアーク溶接で広く用いられる金属である純鉄または純アルミニウムワイヤを供試材料に溶滴生成プロセスの高速度観察を実施した。一般に、アークプラズマに大気(酸素)が混入すると、表面活性元素である酸素の存在が原因で溶融金属の表面張力が低下する。電磁力と慣性力を比較する本年度の目的を達成するためには、表面張力の変動を防止する必要がある。この課題を解決するために、大気からアークプラズマを保護する性能を高めた改良ガスノズルを用いた。溶接電流とワイヤ供給速度をパラメータに、溶融金属ジェットの分裂挙動を高速度撮影し、ジェットの射出開始位置および分裂位置を計測した。ジェット分裂長さ(射出開始位置・分裂位置間の距離)および溶滴生成周期を指標に、計測結果に及ぼす溶接電流・ワイヤ供給速度の影響を評価することに成功し、溶接電流の大きさおよびその電流経路を制御することで溶融金属ジェットの伸長性および分裂時の安定性が制御可能であることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の進捗状況はおおむね順調である。本研究課題は、アークプラズマ雰囲気で観察される溶融金属ジェットの特異な分裂現象を解明するために、分裂形態の遷移に注目して遷移条件を駆動力ベースで定量的に明らかにすることを目的としている。研究期間内に次の三つの大項目に取り組む予定である。①電流入力に対する電磁力・慣性力の分裂駆動特性の評価(表面張力:固定)、②表面張力変化に対する電磁力・慣性力の分裂駆動特性の評価(入力電流:固定)、③①②に基づく3駆動力の分裂駆動特性の相互作用を予測する手法の検討。本年度は研究計画①を遂行し、当初の計画通りに、溶滴生成の時空間特性を溶接電流ならびにプラズマ形状によって制御する定量指針を得た。さらに、次年度に取り組む研究計画②では表面張力を入力パラメータとした観察実験を実施予定であり、表面張力の予期せぬ変動を招く外乱要因を取り除く必要がある。計画①を遂行するためにアークプラズマを大気から保護し表面張力変動を防止する装置を開発した結果、計画②の実験精度のさらなる向上が望める。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、三つの研究項目のうち②表面張力変化に対する電磁力・慣性力の分裂駆動特性の評価(入力電流:固定)に着手する。アークプラズマ雰囲気における溶融金属ジェットの分裂現象は、混相電磁熱流体の流動現象であり、熱物性・電気物性・表面物性が関与する。本年度は特定の金属材料のみを対象にプロセスパラメータが溶滴生成特性に与える影響を評価する縦断的なアプローチを採用したのに対して、次年度は物性の異なる様々な材料を対象に材料間で観察される分裂形態の遷移に着目する横断的アプローチを採用する。具体的には、溶接電流ならびにアークプラズマ形状を固定した上で、様々な金属材料やプラズマ生成ガスを用いて観察実験を実施し、溶滴生成周期(時間生成特性)や溶滴サイズ・ジェット分裂長さ(空間生成特性)を計測する。また、次年度は、溶融金属ジェットの分裂モデルを構築し、金属材料種に依存しない分裂形態の遷移メカニズムの解明にも取り組む。観察実験から得られる知見と構築モデルを統合することによって、本年度に確立した制御指針の妥当性を検証するとともに適用範囲を拡張し、実溶接に適用可能な基礎指針の提供を目指す。
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Research Products
(6 results)