2023 Fiscal Year Research-status Report
アーク溶接における溶融金属の不安定挙動の理解に基づく可変熱源指向性の発現
Project/Area Number |
22KJ2184
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
佐藤 祐理子 大阪大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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Keywords | ガスメタルアーク溶接 / 溶滴移行 / アーク形状 / 電気伝導率 / 電磁力 / 電流分配 |
Outline of Annual Research Achievements |
産業界で広範に利用されるガスメタルアーク溶接において、金属ワイヤを基材とする溶融金属滴(溶滴)の連続供給は質量供給源および副熱源としての役割を果たし、溶滴供給特性の適切な制御を通じてのみ溶接品質が保証される。アーク放電下でワイヤ消耗陽極を逐次供給すると、ワイヤ供給に従って溶融金属ジェットがアークプラズマ中に射出される(慣性力)。射出された溶融金属ジェットは、アークプラズマおよびジェットを貫通する直流電流によって誘起される電磁ピンチ効果と、表面張力による保持効果とが相互作用することにより分裂し、溶滴を連続生成する(電磁力・表面張力)。ジェット分裂特性および溶滴生成特性の遷移は、ジェットを駆動する電磁力・慣性力・表面張力のバランスに支配されると定性的に理解される。しかし、詳細な遷移メカニズムならびに各特性の定量制御指針はいまだ確立されていない。本研究の目的は、3駆動力の相対的強さを定量的に評価し、分裂特性の遷移メカニズムを解明することである。前年度に、ジェット分裂特性の遷移時にはジェット伸長を助長する電磁力の正味の強さが変動している可能性が示唆された。本年度は、この電磁力の実効性を支配する要因を解明するため、アーク形状および金属ワイヤ材料種がジェット伸長性に与える影響について調査を行った。前年度に構築した溶接装置を用いて高速度観察を実施し、ジェットの射出開始位置から分裂位置までの距離を測定することで伸長性を定量評価した。アーク放電過程におけるジェットからアークプラズマへの電流分配は、径方向に拡大されたアーク形状(幾何学的因子)あるいは電気伝導率が低いワイヤ材料(材料因子)の条件下で促進され、当該条件下でのみジェット伸長および溶滴細粒化が観察された。これらの結果から、電流分配の促進が電磁力の実効性を強化し、溶融金属ジェットの伸長を助長すると明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の進捗状況はおおむね順調である。本研究課題は、アーク放電プラズマ雰囲気で観察される溶融金属ジェットの特異な分裂現象の定量制御指針を確立するために、分裂特性の遷移に注目して遷移条件を駆動力ベースで定量的に明らかにすることを目的としている。研究期間内において次の三つの大項目に取り組む予定である。①【電流入力に対する電磁力・慣性力の分裂駆動特性の評価(表面張力:固定)】、②【表面張力を含むワイヤ溶融物性変化に対する電磁力・慣性力の分裂駆動特性の評価(入力電流:固定)】、③【①②に基づく3駆動力の分裂駆動特性の相互作用を予測する手法の検討】。本年度は研究計画②を遂行し、当初の計画通りに、電気伝導率・表面張力を含むワイヤの溶融物性がジェット分裂特性に及ぼす影響を解明することに成功した。特に、電磁力による正味のジェット駆動特性を支配する幾何学的因子・材料因子を特定し、各因子がジェット伸長性を決定する過程における仲介要素が電流分配であると示した。これらの成果は研究計画③における分裂駆動特性の相互作用の予測指針を得るための示唆を提供するものである。本成果を足掛かりに、ワイヤの電気伝導率や表面張力を考慮した溶融金属ジェットの分裂メカニズムを構築することで、次年度に遂行予定の研究計画③の進展が見込める。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、本研究課題の最終段階として三つの研究項目のうち③【①②に基づく3駆動力の分裂駆動特性の相互作用を予測する手法の検討】を遂行する。前年度および本年度の研究成果を踏まえ、ジェット分裂特性を予測するためには、溶融金属ジェット・アークプラズマ間の電流分配の評価が不可欠であるとの方針を確立した。次年度の具体的な推進方策として、アーク形状・ワイヤ溶融物性(電気伝導率・表面張力)を考慮した溶融金属ジェット分裂現象の理論モデルの構築を検討し、本年度までの実験解析から得られた知見を基に構築モデルの妥当性を検証する。特定の金属ワイヤ材料種や放電条件に依存しない分裂特性の遷移メカニズムを混相電磁熱流体力学の観点から解明することで、溶融金属ジェット分裂現象における時空間発展特性の予測精度が向上すると期待される。本研究課題の工学的展開として、実溶接プロセス制御への応用に向けたジェット分裂現象制御の基礎指針の提供を目指す。
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Causes of Carryover |
本年度に得られた成果のうち、アーク形状を変化させた場合の電磁力によるジェット駆動特性を実験アプローチに基づいて解明した成果を査読付き英語論文としてオープンアクセス誌に投稿し、現在査読中である。当該論文の査読プロセスが予定より遅れており、次年度に受理される見込みである。本年度ではなく次年度にオープンアクセス化費用の支払いが必要となることから、次年度の予算計画の一部としてオープンアクセス化費用相当の次年度使用額が生じた。
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Research Products
(6 results)