2021 Fiscal Year Annual Research Report
代替不可能に生きるための生涯学習論:障害福祉施設における就労支援の中断に着目して
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21J22049
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
井上 太一 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 生涯学習 / 社会教育 / 知的障害 / 哲学対話 / p4c |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度に実施した哲学対話(p4c)の記録について、エピソード記述の手法をベースにメタ考察を行って研究をとりまとめ、知的障害者が主体として想定されにくい哲学対話の課題および知的障害のある主体の参加する哲学対話の可能性について、8月に東京で開催された第20回(ICPIC)において発表を行った。また、知的障害のある主体の参加する哲学対話を学習活動として成立しうる条件について、9月にオンラインで開催された社会教育学会の研究大会において発表を行った。なお、本年度においても知的障害のある青年らとの哲学対話を継続的に実施した。 また、8月には韓国へ渡航し、障害のある学生のためのコースがあるナザレ大学や韓国の障害者就労訓練施設の見学を行ったほか、障害のある青年らによる芸術文化活動を行う劇団の視察、および活動への参加を行った。さらに、障害者の生涯学習が政策的に推進されている状況について、文献をもとに1980年代より社会教育の方針が生涯学習社会へと向けられて個人化してきた構造として分析を行った。主に、この社会教育と生涯学習の転換期に唱えられていた社会教育の終焉論、社会教育の終焉論に対して戦後社会教育の理論枠組みを福祉の視座において構築した小川利夫が応答した言説、そして世界的な教育の手段化と学習の個人化に対して教育の独自性を改めて論じているガートビースタの文献について調査を行い、障害者の生涯学習が特別支援教育の延長として論じられることの問題について、生涯学習社会の体系化の問題として把握し、学習の手段としてではない独自性のある教育概念について論じた小川利夫とガートビースタの言説の接合を試みた研究をとりまとめ、生涯学習・社会教育研究促進機構(IPSLA)の『生涯学習・社会教育研究ジャーナル』へ投稿を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルス感染症の影響により、複数の障害福祉事業所及び障害福祉施設へ直接訪問して行う質的調査として計画していた対面での哲学対話について、調整の結果、利用者の生存に関わる福祉サービスの存続のために、その実施を延期せざるを得なかったため。
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Strategy for Future Research Activity |
感染症法における新型コロナウイルス感染症の5類への移行を踏まえて、訪問予定の障害福祉事業所及び施設と再度調整を行って訪問し、基本的な感染対策を講じつつ、質的調査として対面での哲学対話を複数の訪問先で実施する。 また、研究方法の検討および代替不可能性の概念的検討のために、これまで実践によって取り組み、2022年度に子どもの哲学国際学会及び日本社会教育学会において発表を行った、知的障害のある主体と共に行なう哲学対話についての研究成果をとりまとめる。 さらに、異文化を介した哲学対話を先駆的かつ独自に発展させ、対話の実践研究が活発なハワイ大学との交流を行い、8月に直接ハワイを訪問してワイキキ小学校等において実践されている哲学対話に参加するとともに、現地において障害のある主体の参加する哲学対話についての研究調査を行う。 なお、障害福祉事業所及び施設において実施する哲学対話は、これらの哲学対話そのものについての研究を参照しながら並行して行う。国内において芸術文化を活動内容に含む2カ所の障害福祉事業所(京都の一般社団法人暮らしランプ、静岡の特定非営利活動法人クリエイティブサポートレッツ)及び障害福祉施設(鹿児島のライフサポートセンターしょうぶ学園)を訪問し、支援者も被支援者も含む活動の当事者を対象に活動過程の省察をテーマとする哲学対話を行う。対話は映像と音声によって記録し、これを基に逐語録を作成する。これらのデータを用いて、対話の参加者に協力を得ながら、エピソード記述を参考にしたメタ分析を行う。対面での実施が不可欠な哲学対話については、直接の訪問を原則としつつ、データのメタ分析においては、オンラインのコミュニケーションツールを併用しながら実施を行う。
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