2023 Fiscal Year Research-status Report
現代インドの皮革産業: 多様な社会集団の協働によるイノベーションの可能性
Project/Area Number |
22KJ2246
|
Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
久保田 和之 神戸大学, 経済経営研究所, 研究員
|
Project Period (FY) |
2023-03-08 – 2025-03-31
|
Keywords | 皮革 / 高度化 / 職人 / ドバイ / 革靴 / コルハプールサンダル |
Outline of Annual Research Achievements |
ダーラーヴィーの皮革産業と中東の結びつきを調べるために、ドバイの現地調査を2023年8月から9月に行った。ダーラーヴィーの皮革産業に関わる2,3代目のヒンドゥー教徒のチャンバール(マハーラーシュトラ州において皮革産業に関わってきたカースト)の経営者は、ドバイの高級品市場に製品を卸していた。一方でビハール州出身のムスリム経営者はムンバイーの中級品市場に卸す製品をドバイで販売していた。つまり、チャンバールは世代を経て製品の高度化を行なって、より高級な市場に参入しているのに対して、ムスリムはインド国内マーケットをドバイ中級品マーケットに接続していた。 また革履き物産業の調査を開始した。2024年1月から3月の調査においては、アーグラーの革靴産業、コルハプールのコルハプールサンダル産業の調査を行なった。 アーグラーの革靴産業では、国内市場と輸出向け市場の分断、職人の技能低下が進んでいた。国内向けの工場での革靴生産は急減し、ほとんどが合成皮革や繊維を素材とする靴、スポーツシューズ、サンダルに生産がシフトしていた。輸出向け工場において革靴は生産されているが、最も技術力を要するグッドイヤーウェルテッド製法の革靴生産は減少し、靴底を接着剤で貼り合わせるより容易な製法の革靴生産が増加している。 コルハプールサンダル産業の調査においては、職人が高い技術力を保持していたが、将来的に産業が衰退する可能性が明らかになった。コルハプールサンダルは植物なめしで製作した牛革を手作業で編みや打刻の加工を行って製作する革履き物である。しかし、職人の収入が十分でなく、職人の子供たちの多くが別の産業にシフトし始めていること、普段履きやすいデザインに工夫しているのはわずかな職人と経営者に限られていること、革やクッションなどは質の良いものを入手するにはムンバイーに出ていく必要があることなど課題が明らかになった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現地調査は順調に進んでいる。特にコルハプールサンダル産業は初めて訪れた土地であり、ネットワークもほとんどなかったが、現地の協力者をスムーズに確保することができた。現在もインフォーマントとは連絡を取り合っており、順調に調査を進めていけそうである。 ダーラーヴィーの研究成果については来春に単行本として書籍化する予定である。ただし、一方で、英文査読誌への投稿がやや遅れている。2月にネパールで行われた国際経営学学会でフルペーパー発表を行った。査読者からは内容に関して高評価を得て、早く論文を投稿するようにとのアドバイスを受けた。これまでは人類学や地域研究に向けて研究成果を公表してきたが、より他分野の研究者に研究成果を伝えるために、経営学系の査読誌への論文投稿を進めていきたい。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の方向性として、革製品産業とコルハプールサンダル産業においてアクションリサーチの手法を用いることを考えている。コロナ禍でストップしていたダーラーヴィーから海外への製品の輸出も徐々に再開している。ダーラーヴィーの革製品やコルハプールサンダルを欧米市場や日本の市場にコルハプールサンダルを流通させるにはどうしたらよいのか、そこにおける課題は何かなどを検討することを考えている。このことを通じて、コルハプールサンダル産業の構造を地域、人のネットワーク、モノ、情報の流通から捉えることが可能になると考えている。 また英文査読誌への論文投稿を順次行っていきたい。
|
Causes of Carryover |
次年度繰越額1,088,279円は,学術条件整備費(雇用支援)の未使用分である。 当該課題の補助事業期間は令和6年度まで継続するため,事業終了までの学術条件整備費が付いている。 ただし、本年度から神戸大学から国際ファッション専門職大学への転出にともない,雇用支援制度が適用されなくなるため,残額については返還いたします。
|