2022 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22J10606
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
田中 昇一 神戸大学, 人文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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Keywords | 律令地方行政 / 国雑任 / 郡雑任 / 書生 / 雑掌 / 籍帳支配 / 調邸 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は国務に従事した雑任としてしられる書生と雑掌に着目し、彼らの活動と地方行政実務との結びつきについて検討を行った。 書生に関しては、個別の史料を歴史的に位置づける作業を重点的に行った。その結果、書生への公的な給粮がはじめ書生全般に及ぶものではなく、制度的整備を通じて次第にその対象を拡大させていくという段階差が存することが明らかになった。既往の研究では、八世紀の早い段階から彼らへの給粮を通じて、一様に中央側からの把握を受けていたと理解されてきたが、九世紀にかけての地方行政諸制度の整備と軌を一にして段階的に雑任層を把握・認識しようとした、という見方がより正確であったことになろう。また『弘仁格抄』にのみ伝わる畿内書生に関する規定が、当該期の畿内における籍帳支配の回復の動向と密接に結びつくものである点を見出し、中央政府が造籍や校班田を担う実務官人として書生への待遇を改善しようとしていたと想定した。実態面で明らかになっていた書生の役割が制度的に裏付けられることになり、地方行政機構に有機的に組み込まれた雑任層の姿を復原することにつながる理解である。これらの知見は「諸国書生の存在形態とその把握」という題目で口頭報告を行った。 雑掌に関しては、これまで国務への関与が重視されてきたが、相模国調邸関連史料の詳細な検討を通じて郡レベルでの輸送隊編成においても一定の役割を果たす場合があったことを明らかにした。これにより、雑任層が未分化な状態で国郡行政のいずれにも関与していたことが、古代地方行政の運営上不可欠なあり方であったという、重要な見方を導出するに至った。こうした私見の一部は、「古代における貢納物の輸送体制―相模国調邸の郡司代をめぐって―」と題して成稿・投稿を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は書生と雑掌という二つの雑任について具体的な検討を行い、従来の研究の見直しを迫るような結論をいくつか得ることができた。特に書生に関しては、当初計画していたような、造籍―校田―班田という籍帳支配と密接に結びつく書生の姿を法制史料の側から解明する試みであり、律令制の枠組みの中に雑任層を位置づける作業として意義のある成果であると言える。雑掌に関しても、広くしられた史料ながら具体相が未解明であった相模国調邸をめぐる文書群を取り上げ、地域社会の実務官人に着目した新たな解釈を提示できた点は特筆される。また、いずれの見解についても年度内に口頭報告、学術誌への投稿を行い、学界に成果を周知することができている。 以上述べたところにより、本研究はおおむね順調に進展していると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究において書生をめぐる諸制度を精査することで、律令に規定を持たない雑任層の各呼称が諸国で共通することに対して、法令の移動などを通じた諸国間での情報伝達があったのではないか、という見通しを得た。こうした視角に立つと、雑任層の活動を記す国家側の史料が果たした役割を、より多角的に理解することが可能となる。雑任層に対する規制的側面に限らず、法令発布に至った経緯に着目することで、引き続き地方行政機構における雑任層の姿の解明に取り組む。 また、既往の研究では目立った議論がなされてこなかった、律令制施行前後の雑任層についても検討を深めたい。中でも「田領」と呼ばれる雑任は、令制以前のミヤケ経営のために派遣された「田令」との関係が注目されるが、いまだ定見が得られているとは言い難い。各地の地方官衙と目される遺構から関連すると思われる文字資料が出土していることから、これらを用いながら雑任層の淵源を解明する一助とする。 上記の検討を踏まえて、八・九世紀とその前後に及ぶ雑任層の地域社会における実態を追及することを目指す。
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