2022 Fiscal Year Annual Research Report
科学系博物館における幼児を対象とした学習支援を実現するための理念と展示運営の関係
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22J12376
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
高橋 あおい 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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Keywords | 科学系博物館 / 幼児 / 展示 / 理念 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は国立科学博物館の展示室「親と子のたんけんひろばコンパス(以下,コンパス)」を事例として科学系博物館における幼児を対象とした学習支援を実現するための理念,展示,運営の関係性を明らかにすることである。 2022年度は,コンパス関係者への面接調査の結果と面接調査の結果を裏付ける現地調査の結果からコンパスの開発において,当該展示室の理念が展示にどのように反映されたのかを明らかにした。具体的にはコンパスの特徴的な展示エリアである「カハクのマド」を取り上げながら,コンパスの開発者がコンパスの3つの理念のうちの1つである「博物館での親子のコミュニケーション」という理念をどのように具現化しようとしたのかについて,面接調査等の結果に基づき詳述するとともに,「博物館での家族学習」と呼ばれる研究領域の先行研究を参照しコンパスの開発者が用いた展示手法について考察した。 事例研究法に基づく分析の結果,コンパスの開発者が「博物館での親子のコミュニケーション」という理念を具現化するためにカハクのマドの開発において次の3つの展示手法を用いたことが明らかになった。1つめは「幼児にとって魅力的な標本の選択」,2つめは「子どもと大人の目線の違いを生かした標本配置」,3つめは「短い会話文の展示ラベルの設置」であった。この3つの展示手法がどのように意味づけられるのかについて,博物館での家族学習に関する先行研究を参照しながら考察した結果,「幼児にとって魅力的な標本の選択」と「短い会話文の展示ラベル」については先行研究の結果と呼応するものであり,「子どもと大人の目線の違いを生かした標本配置」については先行研究にはない新たな展示手法であることが明らかになった。 これらの研究成果について計2件の雑誌論文(査読付論文1件,国際会議プロシーディングス1件)計3件の学会発表(国際学会2件,国内学会1件)として公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度は研究計画に従って,コンパスの理念が展示にどのように反映されたのかを明らかにした。また,海外の博物館教育または科学教育における著名なジャーナルでの博物館における幼児の科学教育に関する動向を概観することを試みた。研究成果について,2件の学会誌等への発表(査読付き学会誌論文ならびに査読付き国際会議論文),2件の学会発表(国外),1件の学会発表(国内)を行うなど,おおむね順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は,理念が運営によってどのように実現していたのかを明らかにするとともに,本研究で得られた知見と既存の理論的枠組みとの関係性を明らかにし先行研究と比較することで博物館における幼児を対象とした学習支援を実現するための理念と展示・運営に関する総合的な考察を行う。具体的には,コンパスを運営していたスタッフ(以下運営スタッフ)への面接調査等によって,運営スタッフがコンパスの理念をどのように捉えていたのかや,理念を具現化するために運営スタッフがどのような工夫や改善を行なったのかについて明らかにする。国内外の子ども向け博物館の展示の歴史や博物館における幼児を対象とした科学教育研究について概観し,本研究で得られた知見と既存の理論的枠組みとの関係性を明らかにし先行研究との比較を行う。また,博物館における幼児を対象とした学習支援を実現するための理念と展示・運営に関する総合的な考察を踏まえて,科学系博物館における幼児の学習支援モデル構築のための取り組みに着手する。研究成果の発信としてEuropean Science Education Research Association conference 2023,日本科学教育学会第47回年会,日本理科教育学会第73回全国大会等での発表と査読ありの学術誌『科学教育研究』等への投稿を行う予定である。
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