2023 Fiscal Year Research-status Report
軽度知的障害のある青年の「ふつう」志向性について:障害受容論への新展開
Project/Area Number |
22KJ2276
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
生田 邦紘 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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Keywords | 軽度知的障害 / 障害受容 / 普通 / 特別支援学校 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,軽度知的障害のある青年の障害受容について,ふつう志向性の変容に焦点を当て,検討することを目的としている。具体的には,「ふつうになりたい」という気持ちが変容するプロセスや,その気持ちに影響を与える要因を明らかにする。2023年度は,5つの研究を実施した。 研究1:軽度知的障害における障害受容の先行研究について,国内外の研究のレビューを行った。この成果は,現在学術雑誌に投稿中である。 研究2:教師の視点から見た軽度知的障害のある生徒の障害受容について論文を執筆し,国際会議(ヨーロッパ発達心理学会;ECDP)でポスター発表を行った。研究成果は学術雑誌に投稿中である。 研究3:研究2をもとに,特別支援学校の教師を対象として障害受容に関する質問紙調査を行い,定量的分析を行った。分析の結果,知的障害の程度がより軽度の生徒の方が「普通」になりたいと感じていることが明らかになった。この成果について英語で口頭発表を行い,現在は論文を執筆中である。 研究4:軽度知的障害のある青年,家族,教師を対象として,「普通になりたい」という心理の変容に着目したインタビュー調査の分析を行った。ライフストーリーの分析により,「普通」の価値観の形成に親子が互いに影響を与え合っていることが明らかになった。現在,論文を執筆中である。 研究5:ふつう志向性を測定する心理尺度の開発のため,データ収集を行った。尺度開発にあたり,「社会的カモフラージュ行動」を測定する心理尺度であるCAT-Qに含まれる「同化」の因子が,普通になりたいという志向性の測定と関わっていることに着目した。定型発達者840人を対象としたオンラインの質問紙調査が完了した。暫定的な因子分析の結果として,「普通に重きを置く」「自分らしさを抑え込む」「普通の人に溶け込む」という3つの因子構造が見出された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題について,やや遅れていると判断した理由は2である。 1つ目は,障害受容の変容プロセスに関する論文について,学術雑誌の審査に時間がかかっているためである。それに伴い,本論文をもとにした他の調査の論文投稿も時間を要している。 2つ目は,普通志向性の尺度開発に時間をかけているためである。当初の研究計画では,軽度知的障害のある青年を対象として質問紙調査を行う予定だった。しかし,海外の文献から翻訳した「普通への同化」の質問項目に,難しい表現や答えにくい内容が含まれていたため,まずは因子構造を明らかにすることを優先して,定型発達の成人を対象に質問紙調査を行った。そのため,軽度知的障害のある青年の質問紙調査までに時間を要している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究は次の通りである。 (1)障害受容の変容プロセスに関する論文の公刊をめざす。 (2)定型発達者を対象とした普通志向性を測定する心理尺度の開発をめざす。まずは、普通志向性を測定する心理尺度の質問項目と因子構造を解明する。その後に,軽度知的障害のある青年を対象に,質問項目の分かりやすさなど確認をいただいたうえで,より回答の容易な心理尺度を作成する。
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Causes of Carryover |
知的障害のある人への質問紙調査に至るまでに時間を要しているため,そのために必要な費用が計上されていない。この予算については,来年度に質問紙調査を行い,改めて計上する予定である。
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