2022 Fiscal Year Annual Research Report
培養細胞発現系に代わる昆虫の味覚受容体―リガンド解析系の構築
Project/Area Number |
21J00931
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Hiroshima University |
Research Fellow |
高井 嘉樹 広島大学, 統合生命科学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2025-03-31
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Keywords | 味覚受容体 / 産卵選好性 / 宿主選択 / カイコガ科 / 化学感覚子 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、遺伝子予測の難しい非モデル昆虫において、味覚受容体遺伝子を見出し/機能解析を達成することを目的としている。非モデル昆虫である鱗翅目昆虫のクワコは、桑を寄主とする単食性昆虫である。申請者は、自身の先行研究から、クワコ雌成虫の産卵選好性に、前肢に存在する味覚器が重要であると考えている。味覚受容体遺伝子の解析系を確立し、且つカイコガ科の寄主選択機構の一端を明らかにしたい。 現在までに、クワコ成虫肢で発現する味覚受容体候補遺伝子から、雌成虫の産卵選好性に寄与する可能性のある9遺伝子を見出している。昨年度、その内の5遺伝子については、機能解析を行うために、それぞれショウジョウバエ口吻で発現させることに成功した。本年度は、育休取得に伴い2022年7月から2023年3月末まで研究活動を中断した。そのため、実際の研究活動期間は、2023年4月~6月末であった。この期間に、新たに4系統のトランスジェニックショウジョウバエを作製した。具体的には、クワコの成虫肢からTotal RNAを抽出し、cDNAを作製した。このcDNAを用いて、クワコの味覚受容体候補遺伝子をPCR反応的に増幅させて、増幅産物をpUASTベクターにサブクローニングした。シーケンシングによる塩基配列の確認後、大腸菌を用いて当該ベクターを増幅させてカラム精製した。そして、トランスジェニック系統を作製するために精製ベクターを利用した。本研究では、クワコやトランスジェニックハエの味覚受容体発現ニューロンの活動を測定する必要がある。本年度は、電気生理学的実験装置の最適化に成功し、スパイク/ノイズ比(S/N比)が明確な測定環境を整えることができた。WTのショウジョウバエのシュクロース応答を繰り返し記録することができており、トランスジェニックハエを用いて解析するための実験環境が整った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
クワコの成虫肢を用いたRNA-seq、及びリアルタイムPCRの解析結果から、雄成虫よりも雌雌成虫で発現量の高い9つの味覚受容体候補遺伝子を見出している。産卵選好性は、雌成虫に特異的な行動のため、雄成虫よりも雌成虫における発現量の高い遺伝子に着目している。これらの9つの遺伝子の機能解析を行うために、それぞれの遺伝子を発現するトランスジェニックハエの作製を進めてきた。本年度は、育休取得に伴い研究活動を中断したため、実際の研究期間は3カ月間であった。昨年度、9つの内の5遺伝子については、トランスジェニックハエの作製に成功した。しかし残りの4遺伝子については未完成であった。本年度は、残りの4遺伝子について、トランスジェニック系統の樹立を目指した。クワコ成虫肢由来のcDNAから、4つの味覚受容体候補遺伝子をそれぞれサブクローニングすることに成功した。当該遺伝子を含むpUASTベクターを用いて、4つのトランスジェニック系統を樹立した。本年度は、ここまでの研究活動となったが、今後は作製した9つのトランスジェニック系統の中から、桑葉に応答する(摂食行動を示す)系統を見出し、その系統を用いてリガンドスクリーニングに進む。また、本年度は電気生理学的実験装置の最適化が完了し、神経活動のスパイクを高い解像度で記録することが可能となった。これにより来年度から、クワコやトランスジェニックハエを用いて味覚受容体発現ニューロンの解析が可能となった。育休取得に伴い短い3ヵ月のみの研究期間となったが、このような状況を鑑みて、概ね順調に研究が進んでいると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までに、クワコ成虫肢で発現する味覚受容体遺伝子の中から、雌成虫の産卵選好性に寄与する可能性のある9遺伝子を見出している。この9遺伝子については、トランスジェニックショウジョウバエが完成しており、2024年度は、これらのハエの中から桑葉抽出物に応答する(摂食行動を示す)系統を見出し、リガンドスクリーニングを達成する。リガンドスクリーニングに関しては、トランスジェニック系統の摂食行動の有無を指標にして、桑葉抽出物の中から摂食誘導因子を単離・精製する。その第一段階として、摂食誘導因子が、親水性・疎水性・両親媒性分子のいずれに該当するかを明らかにする。親水性分子だった場合は、親水性画分をさらに酸性・塩基性・中性分子に分画する。更なる単離・精製は、HPLCを駆使して行う。質量解析およびNMRの受託解析を利用することで、精製したリガンド(摂食誘導因子)の構造を解析する。リガンドの合成品および類似構造化合物が入手できれば、味覚受容体のリガンド認識特異性の構造的基盤を解析する。加えて、リガンドに対するクワコ雌成虫の産卵選好性や、味覚感覚子の電気生理学的応答を解析する。なおリガンドの合成品が入手できない場合は、桑葉から単離・精製した物質を用いて解析を行う。また、同定した味覚受容体遺伝子のノックダウン実験をクワコ雌成虫を用いて実施する。これらの実験を行うことで、同定したクワコの味覚受容体遺伝子とリガンドのセットが、桑樹に対する産卵選好性に重要なことを確認する。そして、これらの実験と並行して、クワコ味覚受容体遺伝子のカイコホモログの解析を進める。家畜化されてきたカイコでは、成虫肢の桑樹認識機能が衰退/欠如している可能性が高い、という申請者の先行研究がある。このことを検証するために、カイコホモログの機能解析に取り組む予定である。
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