2022 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21J20383
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
矢ノ下 智也 広島大学, 人間社会科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | ガワンタシ / 『縁起大論』 / 凡夫 / 輪廻 / 黒白業 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、チベット仏教ゲルク派の学僧ガワンタシ(1678-1738)著『縁起大論』のうち、「業の解説」中「他説の否定」の翻訳作業を進めた。翻訳研究に基づき、以下の通り思想研究を行なった。(1)前年度までに完了させた翻訳作業に基づいて、業の概念に関するツォンカパとガワンタシの見解を、“Tsong kha pa and His Successors on the Buddhist Concept of Karma”という題目で国際チベット学会(チェコ、カレル大学)にて発表した。(2)凡夫の業についてガワンタシの見解を検討し、凡夫の業の中にも、輪廻の原因にならない業もあるという特徴的な見解を明らかにした。この成果を日本印度学仏教学会第73回学術大会にて発表し、英語論文“Ngag dbang bkra shis's View of Ordinary Beings' Karma”として公表した(Journal of Indian Buddhist Studies)。(3)『縁起大論』の問答を検討し、業と煩悩を原因として生まれ変わることを輪廻として捉え、それ以外の生まれ変わりは輪廻としては見なさないというガワンタシの解釈を明らかにした。この解釈によって、これまで先行研究では曖昧にされてきた「輪廻」の意味を問い直すことに成功した。この成果を第70回日本チベット学会学術大会にて発表した。(4)仏教において重要な「黒白業」という概念について、先行研究では明らかにされてこなかった『阿毘達磨倶舎論』と『阿毘達磨集論』における「黒白業」に対する理解の相違点を明確にし、雑誌論文「黒白業をめぐるガワンタシの見解」(『比較論理学研究』)として公表した。さらに、次のような研究会にも参加した。(1)2022年11月12日に開催された中観派ワークショップに参加し、国内の研究者との知的交流・情報交換を行なった。(2)2023年3月18日、19日に開催された第四回帰謬論証研究会に参加し、大乗仏教における「殺生」の問題に関して、ガワンタシの見解を紹介した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、『縁起大論』の「業の解説」の翻訳作業を行い、その結果ガワンタシに特徴的な業の理解を明らかにすることが出来た。当初の計画では、本年度中「業の解説」中「他説の否定」の翻訳研究を完成させる予定であったが、「他説の否定」の関連箇所の理解が不可欠であると判断し、複数の文献読解を並行して行なった。その結果、翻訳研究の進度に遅れが生じているものの、関連文献の情報を反映した翻訳研究の内容は充実し、さらには、次年度中には「他説の否定」全体の翻訳研究も完了する見込みである。
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Strategy for Future Research Activity |
『縁起大論』「業の解説」の翻訳作業を引き続き行い、「業の解説」全体の翻訳研究を完成させる予定である。本年度までに進めた「他説の否定」箇所の翻訳作業の成果として、殺生業に関するガワンタシに特徴的な見解を日本インド学仏教学会(龍谷大学)にて発表予定である。さらには、「輪廻と業の関係」に関するガワンタシの見解を明らかにし、その成果を『インド学チベット学研究』に投稿予定である。そのほか、対面、オンラインを問わず国内外におけるインド仏教・チベット仏教関連の研究会に積極的に参加し、常に新たな知見を得る。
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