2023 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22KJ2313
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
矢ノ下 智也 広島大学, 人間社会科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2023-03-08 – 2024-03-31
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Keywords | ガワンタシ / 『縁起大論』 / 殺生 / 意思 / 救済 / 業道 / 引業・満業 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、チベット仏教ゲルク派の学僧ガワンタシ(1678-1738)著『縁起大論』のうち、「業の解説」中「他説の否定」「自説の設定」「論難の排除」の翻訳研究を完成させた。翻訳研究に基づき、以下の思想研究を行なった。
(1)前年度までに完成させた翻訳研究に基づいて、大乗仏教における「殺生」の問題をガワンタシの視点から再解釈することによって、業の善・不善の決定要因となるのは意思であるという仏教業思想の本質が、殺生という事例においても例外なく成立することを明らかにした。この成果を第33回西日本インド学仏教学会学術大会、日本印度学仏教学会第74回学術大会にて発表し、英語論文"Ngag dbang bkra shis's View of Killing"として公表した(Journal of Indian and Buddhist Studies)。さらに、その内容を発展させ和文論文「殺生をめぐるガワンタシの見解」として公表した(比較論理学研究)。(2)我々有情が自立性を欠如した形で人間に転生(輪廻)した際に、それぞれの有情には個人差が生じるという問題を考察した。ガワンタシによれば、この問題はすでにヴァスバンドゥの『阿毘達磨倶舎論』とアサンガの『阿毘達磨集論』の間に見解の相違が見られ、「引業」「満業」という二つの概念が鍵となっている。しかし、その議論はインド仏教の中では十分に解決され得ず、ガワンタシの見解を紐解くことが解決への糸口となる。これらのことを『縁起大論』の問答を分析することで、明らかにした。この成果は、今後雑誌論文として公表予定である。
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