2021 Fiscal Year Annual Research Report
A Study on Local Educational Governance in Thailand
Project/Area Number |
21J22835
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
橋本 拓夢 広島大学, 人間社会科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | タイ / 比較教育学 / 教育制度 / 地方教育行政 / 教育ガバナンス / 教育参加 / 協働 / 地方自治 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、教育省とその地方出先機関を中心とする集権的教育行政機構を整備してきた東南アジアのタイを研究対象国に、2014 年以降の軍事暫定政権から民政復帰を果たした2019年以降今日にかけて推進されてきた参加・協働に価値を置く地方教育ガバナンス改革について、その政策的背景や法制度の構造、そして運用実態を分析・考察することである。 こうした目的のもと、令和3年度(1年目)は大別して4点の研究を遂行した。第1に、地方教育行政機構の再編動向の整理・検討である。2016年から2017年にかけて「国家平和秩序維持評議会議長令」と称される軍事暫定政権の命令が教育行政機構を対象に発令され、その再編の特質を分析した。 第2に、「教育革新地区」と称されるネットワーク志向の教育ガバナンス改革に関する序論的検討である。地方アクターによる協働的な教育運営を企図する「教育特区」的施策に関して、関連法令の収集・分析をおこなった。 第3に、現在国会における法案審議過程にある「新国家教育法」を根拠とする協働型システムである「教育総会」の理論的・法制的検討をおこなった。また、「プラチャーラット」と称される現政権下の国家統治の基本方針が、参加・協働に価値を置く「新公共ガバナンス」の発想を基盤に据えていることが明らかとなった。さらに、地方教育行政における「プラチャーラット」の接合状況に関して分析をおこなった。 第4に、来年度に実施予定の中長期的な在外調査研究の調整をおこなった。まず、受入研究者であるチェンマイ大学教育学部の研究者と調整を進めた。加えて、タイ行政学においてガバナンス論に注目しているタマサート大学政治学部の研究者から研究報告書の提供を受けた。これらを踏まえ、今後の運用実態調査に向けた暫定的な分析枠組みを検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウイルスの影響により令和3年度内の渡航は実現しなかった。しかし、今年度を文献収集や法令・政策文書の収集とその分析に充てることで、日本国内においても十分な研究進捗があったと判断できる。また、EメールやSNSを活用し、タイ国内の研究協力者と連絡調整をおこなったり、タイ国内の研究機関や行政機関が実施する関連オンラインセミナーに参加したりした。 なお、研究実績の概要で述べた1点目から3点目は、学会発表や論文発表に結実している。以上から、進捗状況については所期の目標を達成することができたと評価しうる。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度には中長期にわたる在外調査研究を可能とする条件が整っている。そこで、①中央レベル(バンコク都)における制度理念ないし政策的企図に関する調査と、②地方レベル(チェンマイ県)における政策実施に関する調査を予定している。①に関して、具体的に聞き取り調査や資料収集を予定しているのは以下に掲げる機関である。すなわち、「教育総会」の法制化にあたり調査研究を進めてきた教育省教育審議会事務局、「教育総会」の理念に示された地方教育行政における参加・協働の拡大を企図した先行的制度である「教育革新地区」の管理運営を担う教育省基礎教育委員会事務局、そして不就学の子どもの教育機会保障を念頭に、地方アクターの役割を重視する事業を推進してきた「公正な教育のための基金」事務局である。 ②に関しては、受入研究機関であるチェンマイ大学の研究協力者と調整をしながら、チェンマイ県の様々なセクターが教育政策過程において参加・協働する仕組みである「チェンマイ県教育改革同盟」(Chiangmai Education Reform Alliance)のキーパーソンへの聞き取りや資料収集をおこなう予定である。
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