2023 Fiscal Year Research-status Report
近藤効果とフラストレーションが共存するハニカム格子系における量子相転移の研究
Project/Area Number |
22KJ2336
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
大石 遼平 広島大学, 先進理工系科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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Keywords | 強相関電子系 / 磁気的フラストレーション / 近藤効果 / 量子臨界現象 / ジャロシンスキー・守谷相互作用 / ハニカム格子 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度までに,希土類イオンRがハニカム格子を組むRPt6Al3(R=Ce,Gd)の基底状態を明らかにした。R=Ceは重い電子状態を示し,PtをPdで5%置換すると反強磁性(AFM)転移が発現した。一方,周期表でPtの左右に位置するIr/Auで置換すると近藤温度は上下したが,磁気転移は現れなかった。この結果は,Pd置換による磁気秩序が,ハニカム格子の磁気フラストレーションが弱められたことによって発現したことを意味している。R=Gdは7.4 KでのAFM秩序に伴い,ハニカム面内で0.1μB/Gdの自発磁化を示した。これは,ハニカム面内で反強磁性的に配列したスピンが,ジャロシンスキー・守谷(DM)相互作用によって反平行からわずかに傾いたためであると提案した。 本年度は,一連のRPt6Al3化合物の磁性を系統的に理解するために,R=Nd,Sm,Tbの単結晶を育成し,低温での物性を調べた。 R=Nd-TbはいずれもTN=1.1-7.4KでAFM秩序を起こす。このうち,R=Nd,Gdでは傾角AFM構造,R=Sm,Tbは共線的なAFM構造をとる。T>TNにおけるR=Nd,Tbの磁化率は,ハニカム面内の方が面直方向よりも大きいのに対して,R=Smでは逆である。これらの磁気異方性は,結晶場効果によって説明された。TN以下では,R=Nd,Gdの磁気モーメントはc面内にあり,弱強磁性成分を伴うのに対して,R=Sm,Tbは磁気モーメントがc軸方向に向いた共線的なAFM秩序を示す。R=Smの共線的AFM磁気構造は,共鳴X線散乱実験によって確認した。一方,非共線的な磁気構造がR=Nd,Gdのみで現れるのは,DM相互作用がはたらくためである。R=Nd,Gdの傾角AFM構造とR=Sm,Tbの共線的なAFM構造の比較から,DM相互作用のDベクトルはc軸方向を向くと結論した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに,希土類イオンがハニカム構造をなす一連のRPt6Al3 (R = Ce, Nd, Sm, Gd, Tb)化合物の単結晶を育成し,電気抵抗,磁化,比熱などの物性を測定した。これらの結果から,本系の基底状態が,結晶場効果,近藤効果,磁気的フラストレーション,DM相互作用の組み合わせによって理解できることを系統的に示した。特に,SmPt6Al3の単結晶を用いた,バルク物性測定と共鳴X線散乱実験から共線的なAFM構造をとることを明らかにした。その結果を基にして,c面内で強磁性成分をもつGdPt6Al3の傾角反強磁性秩序がDM相互作用に起因する,とした論文をJ. Phys. Soc. Jpn.に公表した。以上の成果から,おおむね順調に進展していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
・ハニカム近藤格子CePt6Al3の結晶対称性を制御し,量子臨界線近傍での異常物性の観測と,特異な磁気秩序相と超伝導相を探索を試みる。そのために,Pdドープによって常圧で磁気秩序寸前にした単結晶試料を用いる。ハニカム面に対して平行と垂直方向に加圧して交流比熱をより高精度で測定し,対称性の低下による磁気フラストレーションの変化を追跡する。加圧によって磁気秩序または特異な超伝導が見出されたら,その原因を他のバルク物性(磁化率,電気抵抗)測定とミクロプローブ(核磁気共鳴,中性子散乱,ミュウエスアール)測定で調べる。 ・Ce(Pt1-xPdx)6Al3で長距離磁気秩序が起こるx>0.1での核磁気共鳴と中性子回折実験の結果を照らし合わせて,磁気構造モデルを提案し,磁気フラストレーションの寄与を捉える。 ・RPt6Al3 (R= Nd, Gd, Tb)の単結晶試料を用いて,中性性回折実験と共鳴X線散乱実験を行い,磁気構造を決定する。これらの結果を基に,希土類ハニカム磁性体RPt6Al3における偶パリティ多極子秩序を検証する。 ・RPt6Al3 (R= Nd, Sm)の電子構造を,量子振動の観測または角度分解光電子分光実験による調べる。これらの測定のために,残留抵抗比が数十を超える高純度単結晶試料を浮遊帯溶融法によって育成する。
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Causes of Carryover |
英国での単結晶育成および中性子回折実験の渡航費を計上していたが,獲得したマシンタイムが2024年度中となったため,2023年度の渡航費は0となった。2024年度,英国での,浮遊帯溶融法による高純度単結晶育成および中性子回折実験の実施のため,渡航費を計上する。
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