2022 Fiscal Year Annual Research Report
Studies on virus-driven molecular ecological mechanisms controlling the termination of red tide
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22J01273
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kochi University |
Research Fellow |
森本 大地 高知大学, 教育研究部自然科学系理工学部門, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | 赤潮 / ヘテロシグマ・アカシオ / ウイルス / メタトランスクリプトーム / 微生物生態学 / 水圏ウイルス学 |
Outline of Annual Research Achievements |
高知県浦ノ内湾で定期サンプリングを実施し、ヘテロシグマとHaV株を多数単離した。これらを用いて交叉感染試験を実施した結果、ヘテロシグマは株特異的感受性の異なる5タイプ、HaVは株特異的感染性の異なる4タイプに群別されることが示された。各タイプから選出した宿主とHaVの代表株間で起こる溶藻現象を最確数法で定量評価した結果、宿主ごとにHaVの感染力価は著しく変動することが明らかになった。この背景には、「クローン株から感染性の異なる多様なウイルス粒子が形成される分子機構」あるいは「感染効率や娘ウイルス複製時のエラー率に影響を与えるような宿主-HaV間相互作用」が介在している可能性が示唆された。本研究成果はこれまで定性評価が行われてきた両者の関係を初めて定量的に紐解いたものである。 また、感染実験やゲノム解読が可能となるよう、ヘテロシグマおよびHaV代表株について無菌化を行った。これらを用いて、本研究の標的であるウイルス巨大タンパク質遺伝子のPCR増幅系およびシーケンス手法を確立し、現在データ解析に取り組んでいる。さらに無菌化により全ゲノムシーケンスも可能となったため、ウイルス粒子を濃縮・精製し、次世代シーケンサーによる解析を依頼している。 上記に加えて、「現場環境でのヘテロシグマとHaVの相互作用の理解」に向けて、環境試料の採取項目や核酸抽出法の最適化、ならびに赤潮最盛期の48時間連続調査も実施した。宿主とウイルスの定量PCR法についても確立済みである。 これらの研究成果により、実験室での培養実験と現場環境での実地調査を遂行し、得られた知見を統合しながら、HaVがヘテロシグマ赤潮の崩壊・終息に与える影響とその分子機構を紐解く上での準備が整ったといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、当初予定していたように高知県浦ノ内湾に由来するヘテロシグマ計46株とHaV計21株のカルチャーコレクションを構築することができた。これらを用いて交叉感染試験を実施することで、感染特異性の異なるヘテロシグマ代表5株とHaV代表4株を選抜することに成功した。また、HaVの株特異的感染性を反映するマーカー候補遺伝子のPCR増幅系ならびにシーケンスフローを確立することができた。現在は、株特異的感染性の異なるHaV株間の当該遺伝子領域の塩基配列比較を行っている。さらに、春~初夏にかけて高頻度な赤潮の現場調査を実施しており(通常期:週1回、赤潮盛期~終息期:週2回)、ヘテロシグマやHaVの株レベルでの組成変動解析をおこなう上で必要な核酸抽出用の試料も入手済みである。したがって、標的遺伝子とHaVの株特異的感染性の間に存在する法則性を見出した後、赤潮盛期~終息期におけるHaV個体群の株組成変動を解析する準備は整っている。 さらに、次年度以降に「赤潮盛期~終息期のフェーズ変化を裏打ちする分子生態学的機構の解明」に挑むため、精製度の高いRNAの抽出法や連続現場調査をおこなう際の工程の最適化等もおこなった。したがって、赤潮盛期と崩壊期におけるヘテロシグマおよびHaV遺伝子の転写動態比較をおこなうための準備も整いつつある。 これらの進捗状況から、本研究課題はおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
令和5年度以降は、まずマーカー候補遺伝子の多型とHaVの株特異的感染性の間に存在する法則性の抽出をおこなう。一方、研究を進める過程で、宿主とHaVの細胞内相互作用も感染効率に影響する可能性が示唆されたため、トランスクリプトーム解析や全ゲノム比較解析を実施し、両者の相互作用に関与する候補遺伝子を網羅的に探索する予定である。特に前者の培養株を用いて行うトランスクリプトーム解析では、現場環境での宿主とHaVの発現動態を理解する上でも重要な知見が得られると想定している。 一方で、赤潮盛期~終息期のフェーズ変化を裏打ちする分子生態学的機構を解明するためには、現場での連続調査が必要であるが、その調査手法については軽微な修正が必要であることが明らかになった。ヘテロシグマ群集は日周鉛直移動に加え、湾内を同調的に移動している。そのため、固定されたサンプリング地点で宿主-HaV間の相互作用を追跡するのは現実的ではないと考えられる。そこで、日の出から日の入りまでの期間でパッチ上の赤潮群集を追跡し、サンプリングを実施する予定である。細菌ウイルス学分野の既往知見では、光合成細菌に感染するウイルスは日中に自身を複製し、夜間に細胞外にウイルス粒子が放出されることが知られている。したがって、このサンプリング手法であれば、日中に生じると推察されるヘテロシグマ-HaV間の転写レベルでの相互作用をより明確に追跡可能であると考えられる。
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