2021 Fiscal Year Annual Research Report
カイコ精巣をモデルとした幹細胞維持と配偶子形成に関与する新奇遺伝子の解析
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21J21572
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
柿野 耕平 九州大学, 生物資源環境科学府, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | カイコ / 精子形成 / 機能未知遺伝子 / NGS解析 / ゲノム編集 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、「カイコ精巣をモデルとした幹細胞維持と配偶子形成に関与する新奇遺伝子の解析」を通した、鱗翅目昆虫だけが獲得した特殊な精子形成機構の解明である。そこで本研究は、NGS解析を用いて幹細胞維持機構と二型精子形成に関与する新奇遺伝子(鱗翅目昆虫のみに保存された機能未知遺伝子)を探索したのちに、ゲノム編集やin silico解析を用いてその機能を明らかにすることを目的としている。具体的には、以下の3つの項目に分けて研究を行っている。 項目1:幹細胞維持機構の解明、項目2:二型精子の運命決定機構の解明、項目3:改良ノックイン法の開発 項目1に関しては、幹細胞ニッチと未分化生殖シストから構成されるGPCs(germinal proliferation centers)に着目し、ここで高発現する遺伝子のプロファイリングを試みた。RNA-seq解析による遺伝子比較解析の結果、GPCsで高発現する遺伝子を同定することに成功した。 項目2に関しては、有核精子形成が生じる時期と無核精子形成が生じる時期のGPCsをRNA-seq解析によって遺伝子発現を比較した。その結果、この二つの時期において、遺伝子の発現が変動する遺伝子を同定した。さらに、この遺伝子から、鱗翅目昆虫だけに保存されており、機能既知のドメインを持たないという特徴を持つ新奇遺伝子を探索したところ、10個の遺伝子を絞り込むことに成功した。さらに、これらの遺伝子をノックアウトした結果、その中の1つの新奇遺伝子は機能破壊によって、配偶子形成に異常が生じることを見出した。 項目3に関しては、尿酸代謝遺伝子のXDH1遺伝子を対象にして、蛍光タンパクEGFPの挿入を行った。また、ドナーの形状やRad51タンパク質の添加等によるノックイン効率への影響を検証を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
項目1:カイコ精巣をGPCsと分化生殖細胞に分画し、RNA-seqを行い、遺伝子発現解析を行った。その結果、GPCsで高発現する4439遺伝子を同定に成功した。さらに。さらに、この遺伝子群から、ヒト、マウス、ショウジョウバエにホモログがなく、鱗翅目昆虫に保存され、かつ既知ドメイン(Pfamデータベース)を持たないという新奇遺伝子を探索したところ、48個の遺伝子を絞り込り込まれた。 項目2:有核精子と無核精子の生産の切り替えが行われる吐糸期の前後のGPCsをそれぞれサンプリングし、RNA-seqを行った。その結果、2サンプル間で発現が変動する784遺伝子を同定した。続いて、項目1と同様の条件で、新奇遺伝子を探索したところ、10個の遺伝子を絞り込むことができた。そこでこれらの遺伝子に対し、CRISPR/Cas9を用いてノックアウト実験を行った。ノックアウト当代(G0)個体を交配した結果、その中の1つの遺伝子を機能破壊した個体では、不稔になるものが生じた。そこで、この精巣から切片を作製・観察したところ、精子形成が不完全であることが判明した。 項目3:まず、ドナーDNAの条件検討を行なった。XDH1遺伝子をノックインのモデルとし、EGFPをインフレームで挿入するようにドナーDNAを設計した。設計したドナーDNAを基本とし、2つの形状(dsDNA、3'-overhang dsDNA)とそれぞれにおける5'のリン酸化の有無によって4条件のドナーを作製した。5'リン酸化無しの3'-overhang dsDNAにおいて最もノックイン効率が高いことが示唆された。そこで、5'リン酸化無しの3'-overhang dsDNAを使用し、大腸菌発現系を使用して作製したBmRad51混合させてノックインを試みたが、予想に反して、BmRad51による効率の向上は確認できなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
項目1:1年目に行ったGPCsのトランスクリプトームデータを、精子形成のモデルとして 知られるショウジョウバエのデータと比較することで、より解像度のカイコの幹細胞維持機構での発現遺伝子のデータ構築を目指す。また、前年度に絞り込んだ新奇遺伝子に対しカイコでのノックアウト実験を行い、それら遺伝子の配偶子形成における機能を解析する。また、研究当初から取り組んできたGPCsで高発現し、培養細胞での機能阻害では細胞質分裂に異常が生じる、新奇遺伝子CRP1のカイコでのノックアウトの表現型を詳細に解析する。 項目2:1年目のRNA-seqおよびノックアウト実験において精子形成に異常が生じた遺伝子について、ノックアウト系統を利用した組織学的解析およびRNA-seq解析を行い、この遺伝子の機能を生理学的・分子生物学的に解析する。 項目3:昨年度の研究では、本来計画していたBmRad51の添加ではノックイン効率が向上しないこと示唆された。そこで、他の実験系にノックイン効率の向上が報告されている薬剤を使用し、更なるノックイン効率の向上を目指す。また、これまでに着目している新奇遺伝子に対し、蛍光タンパク質の挿入を試みる。
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Research Products
(2 results)