2021 Fiscal Year Annual Research Report
酸素雰囲気下におけるアミノ酸誘導体の触媒的脱水素型クロスカップリング反応の開発
Project/Area Number |
21J21744
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
辻 汰朗 九州大学, 薬学府, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | アミノ酸 / 触媒反応 / 有機化学 |
Outline of Annual Research Achievements |
生体内や天然に広く存在しているペプチドやタンパク質はα-アミノ酸を構成要素とする主要な化合物であり、近年、従来の低分子薬や高分子薬に次ぐ、新たな医薬品としてペプチド医薬品が注目されている。特にα、α-ジ置換α-アミノ酸といった立体障害の大きい非天然α-アミノ酸を有するペプチドは脂溶性の増加や構造の安定化、ペプチダーゼ耐性の増加といった性質を有していることから、非天然型α-アミノ酸の合成法の開発はこれまで盛んに行われてきた。しかし、これまで報告されている合成法は、カップリングパートナーは立体障害が小さい求電子剤に限られ、また事前にアミノ酸を活性化した基質を用いる必要があり、環境調和性に難点があった。本研究は、事前活性化した基質を用いずに、触媒によって系中でアミノ酸の活性化を行い、求核剤との脱水素的不斉カップリング反応の開発を目指した。 本年度は、系中でアミノ酸を活性化可能な求電子触媒の探索を行った。様々な有機分子触媒や金属触媒の組み合わせをスクリーニングし、アミノ酸を一時的に活性化可能な触媒を見出した。さらに、この活性中間体と反応可能な種々のカップリングパートナーもスクリーニングした。その結果、不斉は現状発現しておらず、収率も中程度であり改善の余地は大いにあるが、目的の環境調和性に優れた非天然型α-アミノ酸合成法開発の第一歩を踏み出した。 また本研究を進めている間に、事前活性化していないアミノ酸を求電子触媒ではなく、別の機構で活性化する手法を見出した。現状不斉は発現していないが、非常に高収率で目的の求核剤を導入したα、α-ジ置換α-アミノ酸を合成することに成功している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、系中でアミノ酸を活性化可能な求電子触媒の探索を行った。様々な有機分子触媒や金属触媒の組み合わせをスクリーニングし、アミノ酸を一時的に活性化可能な触媒を見出した。さらに、この活性中間体と反応可能な種々のカップリングパートナーもスクリーニングした。その結果、目的の反応が進行する条件は見出したが、不斉は現状発現しておらず、収率も中程度であった。本年度に不斉も発現する条件を見出す予定であったが、本研究においてアミノ酸を事前活性化せずに、系中で活性化し、かつ活性化機構を触媒的に回すという高難易度な反応を開発しているため、予定より進捗がやや遅れている。また、現状不斉発現が困難とされている1電子的なクロスカップリング反応であることも進捗が遅れている要因であり、今後不斉発現が比較的容易な2電子的なクロスカップリング反応に転換することも視野に入れている。 また本研究を進めている間に、事前活性化していないアミノ酸を求電子触媒ではなく、別の機構で活性化する手法を見出した。こちらも現状不斉は発現していないが、非常に高収率で目的の求核剤を導入したα、α-ジ置換α-アミノ酸を合成することに成功している。この活性化機構においては、当研究室の過去の知見より不斉発現の実現可能性が高く、目的の反応の効率的な開発が期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は、既存のアミノ酸合成法に比べて遜色のないレベルでの立体選択性の発現を目標とし、不斉有機触媒、または不斉配位子のスクリーニングを行う。この際、計算科学を併用し、系中でより活性化可能な有機分子の設計を行うことで効率的に評価を進めていく。 その後、ベイズ最適化といった機械学習を用いて、短時間で温度や溶媒、反応時間等のスクリーニングを行い、反応条件を最適化する。そして、見出した最適条件における基質一般性の検討を行う。その際に従来法では合成困難な非天然アミノ酸誘導体の合成を行い、本反応の学術的な有用性を明らかにする。 これまでのスクリーニングで得られた立体選択性や収率といった実測値とDFT計算などの計算値から、推定される遷移状態を明らかにする。他にもラジカルトラップ剤共存下における実験データなど種々のメカニズム解析を行い、反応機構を明らかにする。このデータをもとに、さらなる基質一般性の拡充を目指す。具体的には、求核剤だけではなく、ラジカル剤が基質として用いることが可能か明らかにする。ラジカル剤との反応が可能であるならば、さらに立体障害の大きいα位4級炭素が構築でき、さらなる非天然α-アミノ酸のケミカルスペースの拡充に貢献できると考えられる。 さらに、本手法で合成されたα,α-ジ置換アミノ酸を組み込んだペプチドを合成し、これらの創薬、医薬分野における有用性を調べる。非天然αアミノ酸を構成要素として有するたんぱく質やペプチドには、構造の安定化や脂溶性の増加、ペプチターゼ耐性の増加など、天然アミノ酸に見られない特異な性質をもつことが知られている。よってペプチド医薬品に合成したα,α-ジ置換アミノ酸を組み込むことによる生理活性・物性等の機能評価を行い、本研究が医薬、材料科学等の分野に貢献することを示す。
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