2021 Fiscal Year Annual Research Report
新規熱輸送デバイスの創出に繋がるグラフェン液体セルを用いたナノスケール相変化実験
Project/Area Number |
21J21976
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
廣川 颯汰 九州大学, 工学府, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | ピニング / 固気液三相界線 / グラフェン液体セル / ナノフルイディクス |
Outline of Annual Research Achievements |
ナノスケールの流路を持つ相変化伝熱デバイスの実現のためには,体積力が支配するバルクの流れとは異なり表面力が支配する微小流体の特異性を理解することが不可欠である.令和3年度は液体試料を最高の時空間分解での観察することを可能にするグラフェン液体セル内部に気泡を生成し,固気液三相界線の移動を妨げる力である「ピニング」が発生する原因を探った.ピニングは固体面に存在する物理的・化学的な不均質さによって引き起こされるというのが従来の説であるが,グラフェン表面にまだらに生成されるコンタミネーション由来の高さ1nmほどのステップ構造はピニングを起こさなかった.一方で,液体セル内にある直径2nmのナノ粒子はピニングを引き起こしており,これらの結果はピニングの原因となる物理的不均質さには気液界面の厚み方向の大きさに応じた閾値が存在する可能性を示唆するとともに,グラフェン表面にどうしても発生してしまうコンタミネーションは気液界面に影響を及ぼさないという知見も得られた.また,ピニングは原因となる固体と気液界面が接触することで起こるということがこれまで常識とされてきたが,今回のナノスケールでの観察によって気液界面と固体面の間に2nmの液膜を挟んだ状態で気泡を押し込むようにピニングが発生し得ることを初めて発見した.この非接触でのピニングは固体―液膜―気泡の3体間での分子間力や静電気力を考慮することで説明された.また,気液界面が固体から遠ざかるのを一時的に妨げる力も非接触で働くことが観察され,これは数nmの液膜内部の水分子が固体面との相互作用で作る整列構造を破壊する力を考慮することで定性的に説明された.ピニングはナノスケール空間での流体挙動に最も影響を与える要素であり,その原因を直接観察によって明らかにした本成果は相変化伝熱デバイスだけでなくナノ流路を用いる幅広い応用先に波及するものである.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画で示した相変化伝熱デバイス実現のために解決すべき2つの課題の内の1つである「ナノ流路内部の二相流を支配する気液界面のダイナミクス」を明らかにするべく,気液界面をピニングする原因を直接観察によって調べた.結果,ピニングの原因となる固体面の物理的不均質さに気液界面の大きさに応じた閾値が存在することや,微小空間内部では固体面と接触することなくピニングが引き起こされることを明らかにすることができた. 1年目である令和3年度はその後の2年間に向けた準備として液体セルの厚みと投影面の大きさの関係式の構築も予定していたが,これも原子間力顕微鏡による液体セルの直接計測の手法が確立され,立式に十分なデータが集まりつつある.相変化デバイス実現のためのもう一つの課題である「ナノ空間に封入された液体の相変化の理解」に必要な加熱用ホルダーの作成についてもすでに成功しており,2年目以降の課題としていた加熱による相変化現象の観察を前倒しで始めることができた.また,1年目から3年目までの課題としている,より実際のデバイスの形状に近い形状のグラフェン液体セルの作成についても,当初予定していたチューブ状にグラフェンを丸める方式が困難であったことからスペーサーをグラフェン間に挿入する方式に転換して作成を進めている状態である.
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Strategy for Future Research Activity |
1年目に作成した加熱観察用の試料を用いて,ナノ空間に封入された液体の相変化現象を観察することを第一の目標とする.観察結果を評価する際には透過型電子顕微鏡の電子線が液体に与える影響を無視することができないため,電子線が液体に与える影響についての調査を入念に行う.加えて,封入された液体の圧力を評価する必要もあるため,原子間力顕微鏡を用いて内圧を測定する手法の確立も目指す. また,ナノ空間内の液体挙動に固体面が与える影響が大きいことが明らかになってきたため,これまでのグラフェンによる液体セルだけでなく,新たな二次元材料を用いた液体セルを作成・観察し,グラフェンとの結果を比較することで固体面の性状の与える影響をより詳しく探る予定である.
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