2022 Fiscal Year Annual Research Report
同位体分析による中・古生代東アジアの構造発達史:日本列島と韓半島との対比
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22J00736
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
川口 健太 九州大学, 比較社会文化研究院, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | 大陸地塊 / 東アジア / 日本列島 / 韓半島 / ジルコンU-Pb年代 / 飛騨帯 / 古生代 / 中生代 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本列島の骨格をなす基盤は古生代以降アジア大陸東縁部で成長し中新世の日本海拡大により大陸から分離した。中新世以前の原日本列島がアジア大陸のどこで成長したのか不明な点が多い。これは日本列島とアジア大陸に共通する年代、形成プロセスを持つ基盤岩が限られることに起因している。令和4年度は韓国東縁部と日本の飛騨帯とその西方延長部である江尾地域で採取したトリアス紀からジュラ紀に形成されたと予想される花崗岩類の年代測定、全岩化学組成測定等の結果をまとめることにより、トリアス紀からジュラ紀にかけての火成活動の多様性とそれらの時空間的分布から、東アジアのマグマ進化プロセスを構築した。またこれまでに報告されたデータも加味すると、トリアス紀からジュラ紀にかけて、①共通の年代を持ち、②高角度の海洋プレート沈み込みにより比較的若い大陸縁辺の地殻が高温で溶融して形成された花崗岩類が、韓半島南東部と北東端、また日本の飛騨帯と江尾地域に集中して分布することが明らかとなった。このことは、飛騨・江尾花崗岩が韓半島南東部から北東部へ続く一連の沈み込み帯で形成されたことを意味する。令和4年度はこれらの成果を査読付き論文2編で公表した(Kawaguchi et al., 2023, Lithos 436-437, 106955; Kawaguchi et al., 2023, Gondwana Research 117, 56-85)。 また令和4年度は鳥取県西部地域に分布する江尾構造帯と富山県周辺の飛騨帯、韓国のGyeonggi地塊東部の野外地質調査を実施し野外における産状と構造の記載に加え年代測定、岩石化学組成測定用試料を採取した。江尾構造帯における年代測定が順調に進んでおり、江尾構造帯がこれまでに考えられてきたような古生代の収束帯ではなく、白亜紀の関門層群に年代、岩相ともに類似することが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和4年度は当初の予定通り、鳥取県西部地域に分布する江尾構造帯と、富山県周辺の飛騨帯の野外地質調査を実施した。現時点において、江尾構造帯で採取した岩石試料のジルコンU-Pb年代測定が順調に進んでおり、①江尾構造帯の主体をなす砂岩は白亜紀中頃の約100 Maに堆積したこと、②白亜紀の砂岩には70%を超える割合で先カンブリア時代の年代を持つ砕屑性ジルコンが含まれること、また一部にはジュラ紀後期の160 Ma前後に堆積したと推定される砂岩が分布していること、③江尾構造帯南部では約91 Maに安山岩~デイサイト質の火山砕屑岩の形成を主体とする火成活動が生じたことが判明した。これらのことから、江尾構造帯がこれまでに考えられてきたような飛騨外縁帯や長門構造帯に対比可能な古生代の収束帯ではなく、むしろ白亜紀の関門層群に年代、岩相ともに類似することが明らかとなった。また従来ジュラ紀に貫入したと考えられてきた江尾花崗岩のうち、江尾構造帯の北縁で接するものは白亜紀末期の68 Maに貫入したことが明らかとなった。これは白亜紀の江尾構造帯の礫岩と断層で接しており、両者ともにカタクラサイト化を被っている。このことは、両者が接触する断層運動が少なくとも68 Ma以降に生じたことを示しており、古生代の構造運動を示す証拠も今のところ認められない。 日本における野外調査と各種測定に加えて、当初の予定では翌年度(令和5年度)に見込んでいた韓国の野外地質調査を令和4年度に実施することができ、日本の飛騨帯との対比に極めて重要な韓国Gyeonggi地塊東部におけるトリアス紀火成岩、変成岩類の試料採取を行った。以上の通り、本研究は概ね当初の計画通り順調に進行している。
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Strategy for Future Research Activity |
江尾構造帯はジュラ紀後期から白亜紀中頃の堆積岩類と、白亜紀後期の火山砕屑岩を主体とする火山岩からなり、関門層群に類似することが明らかとなった。また白亜紀の砂岩には70%を超える割合で先カンブリア時代の年代を持つ砕屑性ジルコンが含まれ、極めて淘汰の悪いコーツァイトの角礫が多量に含まれる。コーツァイトは先カンブリア時代の大陸地殻の構成要素の一つであることから、先カンブリア時代の大陸地塊が砕屑粒子の主たる供給源であり、それは東アジア大陸の何れかである必然性が高い。従って、次なるステップとして江尾構造帯の礫岩に着目した野外地質調査を実施し、地質図作成、構造解析、岩石試料採取を行う。江尾構造帯に産する礫岩中の礫を分離し、礫の岩石学的特徴を明らかとし、ジルコンU-Pb年代測定や全岩化学組成測定を行いその形成年代と形成テクトニクスを推定する。各種データが出揃った段階で韓半島や東アジア大陸地域における既存のデータをコンパイルし、江尾構造帯の礫岩に含まれる礫の起源となる地体の候補を絞り込む。また石川県と富山県にかけて分布する飛騨帯地域の野外地質調査を実施し、地質図作成、構造解析を行うとともに、飛騨帯を覆って産する火山砕屑岩に含まれる花崗岩や片麻岩ゼノリスを採取する。それらは、東アジアの大陸地殻起源の可能性が高く、上記の年代測定、岩石化学分析を行うことによりその起源の推定を試みる。調査対象地域を広げることにより、日本列島のアジア大陸縁辺での成長過程を古生代から中生代に至るまで連続的に解き明かすことを目標にする。
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