2022 Fiscal Year Annual Research Report
Nuclear Spin-Hyperpolarization of Biomolecular Probes by Photoexcited Triplets toward the Creation of Highly Sensitive MRI Technology
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22J21293
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
濱地 智之 九州大学, 工学府, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | 三重項電子 / 動的核偏極(DNP) / 核磁気共鳴(NMR) / 磁気共鳴イメージング(MRI) / 超分子化学 |
Outline of Annual Research Achievements |
光励起三重項電子スピンの偏極状態を用いた動的核偏極法(triplet-DNP)は、高温かつ低磁場で核スピンを偏極することができ、穏和な条件でNMRやMRIの感度を向上できる。特に、生体内代謝の中心に位置するピルビン酸はその代謝経路が様々な疾患と関連しており、triplet-DNPによってピルビン酸の13C核スピンを偏極し、高感度な13CMRIを観測することができれば、様々な医療機関で迅速な診断を行うことができると期待されている。しかし、従来の偏極源分子はペンタセンに限られており、triplet-DNPによって偏極できるマトリックスはペンタセンを分散可能な疎水性の芳香族分子に限られていた。そのため、ペンタセンは親水性のピルビン酸とは相溶性が低く、triplet-DNPによるピルビン酸の13C核スピンの高偏極化は困難であった。 本年度は、親水性ペンタセン誘導体NaPDBAとシクロデキストリンとの超分子相互作用によって、ピルビン酸Naを含有する水/グリセロール混合溶液(DNP juice)にNaPDBAを分散し、ピルビン酸Naの13C核を高偏極化させることに成功した。NaPDBAは高極性なピルビン酸Naを含むDNP juice中で凝集したが、シクロデキストリンと錯体を組むことで分散性が向上し、ピルビン酸Naを高濃度に含むDNP juice中であっても光励起三重項電子スピンの偏極が確認された。 最後に、100 Kの温度下、triplet-DNPによってNaPDBAが生成する三重項電子スピンの偏極をDNP juiceガラス中の水分子の1H核スピンへ移行し、1H核スピンの偏極状態をピルビン酸Naの13C核へ移行した。ピルビン酸Naの13C核スピンの偏極は熱平衡状態と比較して増感した13CNMRスペクトルによって確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、水溶性ペンタセン誘導体であるNaPDBAとシクロデキストリンとの超分子相互作用を利用し、ピルビン酸Naとの相溶性を向上させることで、実用上もっとも重要なMRIプローブであるピルビン酸Naの13C核スピンを偏極させることに成功した。従来のtriplet-DNP分野は疎水的なペンタセンに限定され、ピルビン酸のような親水性分子を偏極することは困難であったが、本研究は超分子相互作用という新たな化学的アプローチを用いてはじめてピルビン酸の高偏極化を達成した。この点で本年度の成果はtriplet-DNP分野に対してブレークスルーを与えるものである。実用的なレベルの高感度MRIを行うためにはさらに100倍以上の高偏極化が必要となるが、同時並行で新規ペンタセン誘導体を開発し、アモルファスマトリックス中1H核スピンのさらなる偏極倍率の向上を達成した。このように、ピルビン酸の偏極倍率をさらに増大させるための戦略は立てられており、実用的な高感度MRIの達成にむけておおむね研究は順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
ピルビン酸の高偏極化はDNP juiceのガラス転移点より低い100 Kで達成されたが、triplet-DNPは室温でも行うことが可能なため、より実用的な高感度MRIの開発に向けて室温でピルビン酸を高偏極化することを目指す。さらに、実用レベルで必要な偏極倍率を達成するために新規偏極源を開発する予定である。 室温でピルビン酸を高偏極化するためには、核スピンの偏極状態を保つために、室温でも十分に長いスピン格子緩和時間を有するマトリックスを見つける必要がある。さらに、生体応用を見据えて生体親和性の高いマトリックス分子を選ぶ必要がある。これらの条件を満たすような分子を用いてアモルファスマトリックスを作製し、スピン格子緩和時間を測定する。 偏極倍率の更なる増大のために、本年度の新規ペンタセン誘導体の開発から得られた知見を基に、より小さな磁気的双極子相互作用をもつ光励起三重項電子スピンを生成する偏極源分子を開発する。その後、ピルビン酸との相溶性を見据えて親水性官能基を修飾し、先に述べた生体親和性マトリックスにピルビン酸と共に分散させる。最後に、triplet-DNPによってピルビン酸13C核の偏極を行い、生体を用いた高感度MRI測定によってピルビン酸の代謝を観測する。
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