2022 Fiscal Year Annual Research Report
レプトンにおけるCP対称性の破れの検証に向けたニュートリノ原子核反応の精密測定
Project/Area Number |
21J21789
|
Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
在原 拓司 東京都立大学, 大学院理学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
|
Keywords | ニュートリノ / J-PARC / T2K実験 / SuperFGD / 光検出器較正装置 / WAGASCI-BabyMIND / 反応断面積 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究者が参加しているT2K実験は、素粒子の1つであるニュートリノを茨城県東海村J-PARCの加速器を用いて生成し、295 km離れた岐阜県のスーパーカミオカンデで観測することで、飛行中にニュートリノの種類が変わるニュートリノ振動という現象を観測し、ニュートリノと反ニュートリノの性質の違いを示すCP対称性の破れを探索する長基線加速器ニュートリノ振動実験である。CP対称性の破れを更なる確度で探索するためには統計誤差と系統誤差を削減する必要があり、特に系統誤差の削減にむけて、様々な前置検出器が用いられている。 申請者はT2K実験で用いられる前置検出器を使用した研究を行っている。1つは新たに導入予定の新型前置検出器SuperFGDの光検出器較正装置に関する研究である。2つ目はWAGASCI-BabyMINDと呼ばれる前置検出器を用いたニュートリノと原子核の反応に関する研究である。2つ目の研究は1つ目に述べたSuperFGDが昨今のCovid-19や半導体不足等の影響によりプロジェクトに遅れが生じ、在学期間内にデータ取得および解析を行うことが困難になったため、新たに当該年度から始めた研究であるが、研究目的は一貫してニュートリノと原子核の反応を精密に測定することであり、使用する検出器を変更した次第である。当該年度ではSuperFGDの光検出器較正装置に関する研究実績として、量産された装置の品質検査、導入準備、および取付やケーブル配線等の導入を行い、さらには本較正装置を用いて検出器の初期の健全性確認を行った。一方でWAGASCI-BabyMINDに関する研究実績として、ニュートリノと原子核の反応の解析の準備を行ったことに加えて、2023年度のニュートリノビームを用いたデータ取得に向けた検出器の準備を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究者は素粒子の1つであるニュートリノと反ニュートリノの性質の違いを示すCP対称性の破れの検証を主な目的とした長基線加速器ニュートリノ振動実験であるT2K実験に所属している。更なる確度でのCP対称性の破れの検証には統計誤差と系統誤差の両面から削減することが必須であり、本研究者は系統誤差削減のための前置検出器を用いた研究を行っている。 現在までの主な研究内容は2つあり、1つはT2K実験の新型前置検出器であるSuperFGDの光検出器較正装置の研究、もう1つは同実験の前置検出器であるWAGASCI-BabyMINDを用いたニュートリノと原子核の反応の研究である。前者は概ね順調に進行した。光検出器較正装置の設計修正、量産、品質検査装置開発とそれを用いた検査、本装置の取付等を完了した。加えて本較正装置を運用し、検出器の健全性の再確認、ケーブル接続試験や光漏れの検査が行われた。一方でSuperFGDの物理データ取得の時期はCovid-19や半導体不足等の影響で当初の計画より遅れた。結果、本研究者の在学期間中にSuperFGDを用いたニュートリノと原子核の反応の精密測定に向けたデータ取得及びその解析を行うことが現実的ではなくなったため、ニュートリノと原子核の反応に関する研究を行うために、別のT2K実験の前置検出器であるWAGASCI-BabyMINDに関しての研究を開始した。 WAGASCI-BabyMIND検出器を用いたニュートリノ反応測定に関して大別し2つの進捗がある。1つ目は2023年度のWAGASCI-BabyMIND検出器のデータ取得に向け、水入れや検出器較正、故障個所の修理や運用に必要な水センサーの実装等の様々な準備を行った。もう1つは実データを用いた解析の準備を行った。当初の計画からやや遅れた進捗にはなるが、2024年度からデータ解析を始める。
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度は主にT2K実験の前置検出器の1つWAGASCI-BabyMIND検出器を用いてニュートリノ反応の測定を行う。本研究者は様々なニュートリノと原子核の反応モードがある中でも、ニュートリノと水および炭素標的の反応に関して、終状態に荷電パイオンを1つ伴う荷電カレント反応の測定を行う。 T2K実験の主要な系統誤差の1つがニュートリノと原子核の反応由来のものであり、その中でも標的の違いに起因する反応の違いを理解することは非常に重要な課題である。これは後置検出器のスーパーカミオカンデが水標的であるのに対して、後置検出器の系統誤差削減を担う前置検出器ND280が炭素標的の主体としているため、標的の違いが系統誤差となるからである。今後、本研究者がニュートリノと原子核の反応の精密測定に用いるWAGASCI-BabyMIND検出器は、水と炭素の両者をニュートリノの標的として有している。加えて、ND280では測定が困難である大角度散乱する粒子に対しても感度を持つ。凍のようにWAGASCI-BabyMINDはニュートリノと原子核の反応をより詳細に理解することが期待される。 本研究者は3つの段階に分け本研究を行う。最初はシミュレーションを用いたイベント選別手法の開発である。検出器で測定されたイベントから対象となる反応を選別するために、選別基準の検討およびその最適化を行う。次に、シミュレーションを用いて、解析手法の検証を行う。反応断面積の抽出には実データに加えて、あるモデルに従ったシミュレーションデータも使用されるが、別のモデルに従ったシミュレーションデータを用いた結果も算出することで、本研究の健全性および妥当性の検証を進める。最後に本検出器を用いて取得した物理データを用いて実際の解析を行い、ニュートリノ反応断面積の抽出を行う。
|
Research Products
(4 results)