2022 Fiscal Year Annual Research Report
新しい外骨格硬化の仕組み:デュアルオキシダーゼ(Duox)による架橋形成
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21J21904
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
萩原 翠唯那 東京都立大学, 大学院理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 昆虫外骨格 / 硬化 / ポリマー化 / ナノインデンテーション / ショウジョウバエ |
Outline of Annual Research Achievements |
昆虫外骨格は、高い耐久性を有しており、これが昆虫の様々な環境への適応に大きく寄与している。外骨格硬化にはラッカーゼと呼ばれるマルチ銅酸化酵素の関与が定説化されているが、予備実験のデータからデュアルオキシダーゼ(duox)と呼ばれる別の酸化酵素も、外骨格硬化に関与している可能性が考えられていた。そこで、本研究ではキイロショウジョウバエを用いて、duoxによる外骨格硬化のメカニズムを解明することを目的とした。Gal4/UAS強制発現システムを用いて、表皮細胞特異的にduox遺伝子をノックダウンしたところ、幼虫特有の外骨格構造であるマウスフック先端が破損する表現型が観察された。これらの結果から、duoxの発現低下と組織の強度低下との間の相関が示唆された。 Duoxは細胞膜に局在し、細胞外における活性酸素種の産生を触媒する。Duoxによってつくられる活性酸素種はタンパク質表面のチロシン残基に作用し、その結果チロシン残基同士が共有結合的に架橋する構造であるジチロシンが形成されるが、これが外骨格成分のポリマー化に寄与していると考えられている。現在、表皮細胞で発現する新たなGal4系統を作製したため、Duoxが触媒する酸化反応の局在をライブで可視化する準備も進めている。ここでは、Duoxが産生する活性酸素種による酸化を受けて蛍光波長が変化するレポータータンパク質を利用し、Duox依存的に外骨格硬化が起きる場所やタイミングのモニターを予定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
基質遺伝子特定のため、基質候補遺伝子のGal4系統を作成した。現在、この系統を用いたduoxの発現抑制によって生じる表現型の観察および、後述するレポータータンパク質を発現させることによるDuox活性のモニタリングを進めている。 また、関連するDuoxにより架橋形成されるタンパク質の研究において、この基質タンパク抗体を用いてウェスタンブロッティングにより架橋の有無を検出したところ、duoxのノックダウンによって基質タンパクが架橋形成されなくなることが判明した。オフターゲット効果を回避しつつ表現型を回復するため、コクヌストモドキのduoxを発現するための系統も作成済みであり、実際にこの基質タンパク質において発現抑制による表現型及び架橋形成の回復を検出できた。さらに同研究において活性酸素種を検出するためのレポータータンパク質を見出した。これを用いて生体内でDuoxの活性をモニターできる可能性があり、外骨格の硬化がDuoxの酸化酵素としての活性によってもたらされていることを示すための有用なツールとなりうる。このレポータータンパク質と架橋基質タンパク質の融合タンパク質を発現させる系統を作製、実際に酸化状態を検出できたため、より改良を加えた発現系統を作製中である。総じて本研究は順調に進んでいると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も外骨格の硬化におけるduoxの寄与を明らかにするため、引き続き表現型のより詳細な観察並びにレポータータンパク質を用いたDuox活性のモニタリングを進めていく。さらにDuoxと外骨格の硬化の関与を明らかにするため、外骨格の物理量の測定・定量を行っていく。また、コクヌストモドキのduoxを発現することで表現型回復を試みるなど、duox発現と外骨格構造の物性との相関についても精査していく。 次年度からはduoxによって架橋される基質タンパク質の特定についても進めていく予定である。すでに候補となる基質タンパク質のGal4系統を作製済みであるため、表現型及び物性の測定を行うことを計画している。また、Duoxの活性化メカニズムについても詳細な解析を行う予定である。DuoxはEFハンドと呼ばれる構造を持ち、カルシウムシグナルを受容により活性化するとされている。実際に先行研究においてDuoxによるROS産生には、このドメインが必要であることが示唆されている。現在EFハンドドメインを欠くDuoxを発現する系統を作成中であり、今後はこの系統を用いて発現抑制による表現型及び架橋形成の回復を計画している。さらに、Duoxのカルシウムシグナルによる活性化については経路上流における昆虫ホルモンや神経ペプチドの関与についても検討していく。
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