2022 Fiscal Year Annual Research Report
星間分子雲における重水素体濃縮機構解明のための新しい量子化学計算手法の開発
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21J00806
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
桑畑 和明 横浜市立大学, 生命ナノシステム科学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 星間分子雲 / 経路積分法 / 量子効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、星間分子雲で生成される有機物において重水素の割合が異常に多くなる現象(重水素濃縮)を解明するために、氷表面の化学反応における同位体効果を明らかにすることを目的としている。既存のPIMD法では氷表面の計算は計算コストが大き過ぎるために実行困難であった。そこで、本年度は周期境界条件を適用可能な第一原理計算であるVASPと経路積分分子動力学(PIMD)法を連結させるサブルーチンを新たに開発し、氷表面に対するPIMD法の計算を可能にした。この新規PIMD法を用いて、ice VIIからice Xにおける相転移に対して量子効果がどのように働くかを調べた。その結果、核の量子効果が相転移圧力を30 GPa程度下げることが明らかにした。また、ice VIIにおいては量子効果が氷の圧力を下げる働きがあるのに対し、ice Xでは量子効果が圧力を上げることが分かり、結晶相によって量子効果の働きが異なることも明らかになりました。 また、新規PIMD法を用いて水における同位体効果解明にも取り組んだ。具体的には、ヒドロニウムイオンを含む水に対してPIMD法を実行し、核の量子効果によって酸素原子間の距離が短縮することが分かりました。これは、水における量子効果が水素結合を強めることを示唆するものです。これらの結果から、新規PIMD法が水・氷における量子効果の解明に有効であることが明らかになりました。 星間分子雲における氷は地球上における通常の環境で生成される結晶氷と異なり、水分子の配列が不規則なアモルファス氷である。現在は分子動力学法を用いてアモルファス氷の作成に取り組んでいる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画ではONIOM法を用いて大きい水クラスターを作ることで、氷表面を作ることを想定していたが、周期境界条件を適用した方がより自然に氷表面を作れることに気がついたため、研究実績の概要で記述したように周期境界条件が実装されているVASPを結合するサブルーチンの開発に着手した。その結果、ice VIIからice Xにおける相転移における量子効果の解明に成功した。そのため、自己評価として「おおむね計画通り」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
氷表面モデルの作成に成功したので、申請時の計画に従い氷表面にCO分子を吸着させ、水素原子の付加・引き抜き反応の遷移状態探索を実行する。得られた遷移状態から活性化エネルギーを計算し、メタノール生成までの反応速度定数を見積もる。同様の計算を重水素でもおこない、メタノール生成の同位体効果を求め、重水素濃縮のメカニズムを解明する。
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Research Products
(6 results)