2021 Fiscal Year Annual Research Report
リポカリン分子に着目した金属カドミウム慢性毒性発現機構の解明
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21J22239
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Gifu Pharmaceutical University |
Principal Investigator |
山本 勝也 岐阜薬科大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | C8γ / カドミウム / 毒性発現 / リポカリン / 肝毒性 |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者は、これまでの研究の過程において、リポカリン分子であるC8γが金属カドミウム(Cd)とも結合性を示す可能性を見出した。C8γがCdの毒性発現に影響を与える分子であるという作業仮説のもと本年度は、Cd急性毒性におけるC8γの毒性学的意義について独自に作製したC8γ欠損(KO)マウスを用いた解析を行った。雄性野生型マウスに急性毒性用量のCdを単回腹腔内投与すると、投与24時間後に肝臓において障害が認められると共に、C8γ遺伝子の発現が低下した。一方で、雄性C8γKOマウスにおいては、Cdの腹腔内投与によって生じる肝毒性が軽減されていた。この原因を明らかにする目的で、KOマウスの肝臓について、RNA-seqにより遺伝子の網羅的解析を行ったところ、野生型マウスに比して遺伝子Aの有意な発現上昇が確認された。その一方で、腎臓をはじめとするその他の臓器においては遺伝子Aの発現変動は認められなかった。また、出生日のKOマウスの肝臓における遺伝子Aの発現も野生型マウスと同程度であった。C8γの主たる発現臓器は肝臓であること、遺伝子Aは活性酸素種などのストレスによって誘導されることから、C8γの欠損によって肝臓においてなんらかのストレスが生じ、それに伴って徐々に遺伝子Aが誘導されていく可能性が考えられた。以上の結果から、C8γKOマウスの肝臓におけるCdの毒性軽減機構には、C8γの欠損によって代償的に生じた遺伝子Aの発現誘導が関与している可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
雄性野生型マウスに急性肝毒性を誘発する条件でCd単回腹腔内投与すると、投与24時間後の肝臓においてC8γの発現が低下すること、またC8γKOマウスではCd投与による急性肝毒性が軽減されることを見出した。これらの結果から、当初の仮説通り、C8γがCdの毒性発現に関わる分子である可能性が強められた。 さらに無処置のC8γKOマウスの肝臓において、Cdの毒性発現に関与することが報告されている遺伝子Aの有意な発現上昇が確認された。一方で、その他の臓器や出生日個体の肝臓では、KOマウスにおける遺伝子Aの発現上昇は認められなかった。 これらの結果から、肝臓におけるCdの毒性発現において、C8γと遺伝子Aの関連を見出すことができた。 上記成果より、令和3年度は概ね期待通りの研究成果が得られたと評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4-5年度は、遺伝子Aの発現誘導機構にC8γが及ぼす影響についての解析と、本研究の当初の目的であるCdの動態と腎毒性発現におけるC8γの毒性学的意義の解析を行う。遺伝子Aの発現誘導機構にC8γが及ぼす影響については、C8γのノックダウン/過剰発現条件下において、遺伝子Aのプロモーター領域を組み込んだレポータープラスミドを用いたレポーターアッセイを行うことで評価を行う。Cd動態の解析は、令和3年度にCd投与を行った野生型およびC8γ KOマウスの各臓器におけるCdの蓄積量を誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)により定量することで行う。さらに、C8γがCdのリザーバー分子としてCdの毒性発現に直接関与していることを明らかにする目的で、C8γをノックダウンしたマウス由来近位尿細管細胞にCdを添加し、細胞生存率を評価する。組換えC8γタンパク質の同時添加によるレスキュー実験により、Cd毒性による表現型が回復するかの解析も行う予定である。さらに、生体においてもCdの腎毒性にC8γが関与していることを確認するために、新たに野生型マウスとC8γKOマウスにCdの投与を行う。令和3年度に実施したCdの単回腹腔内投与では、肝臓への毒性が強く表れてしまい腎臓への影響が評価できなかったため、最適な投与系選択を行う。現段階では、肝臓への毒性影響が小さい低用量のCd連日投与や、Cd-メタロチオネイン(MT)混合溶液の尾静脈内単回投与などを考えている。野生型マウスとC8γKOマウスと腎臓毒性病理標本を比較し、病理学的解析を行う。さらに、腎臓における遺伝子やタンパク質の発現解析や、組み換えC8γタンパク質投与によるin vivoでのレスキュー実験を行うことで、C8γが関与する腎臓におけるCd毒性発現機構の解明を目指す。
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