2022 Fiscal Year Annual Research Report
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22J01482
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
齋藤 真里菜 名古屋市立大学, 芸術工学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | メラノプシン / 網膜神経節細胞 / 認知機能 / 視知覚 / 心理学 |
Outline of Annual Research Achievements |
メラノプシンは比較的近年に同定された視物質であり、ipRGCと呼ばれる網膜神経節細胞に存在している。これまでの研究により、この視物質は概日リズムや対光反射、視覚への関与が示唆されてきたが、さらに近年では覚醒度や睡眠にも影響を及ぼすことが明らかになっている。しかし、覚醒度や睡眠はメラノプシンの概日リズムへの影響を調べる一つの指標として用いられるのみであり、メラノプシンが受容した光情報がヒトの日常のパフォーマンスに与える影響はほとんど論じられていない。一方で、メラノプシンが好む青色光がヒトの認知的なパフォーマンスに影響を与えることは、教育や発達の分野等で研究が進められてきており、この背後にメラノプシンによる光受容があるのではないかと論じられてきた。しかし、メラノプシンの刺激量を選択的に増減させることで認知パフォーマンスに及ぼす影響を調べた研究は少なく、メラノプシンがどの程度ヒトの認知機能に関係するかは未解明のままである。 本研究は、メラノプシンの刺激量を選択的に大きくして心理実験を実施し、認知機能の一つである注意に及ぼす影響を検討することを目的としている。具体的には、プロジェクタを用いた多原色光源刺激装置を作成し、他の受容体の刺激量を変えずにメラノプシンのみを刺激した光の上で注意課題を行う実験を計画している。 今年度の本研究は、実験に用いる予定である二台のプロジェクタを利用した多原色光源刺激装置の作成を行った。現在は二台のプロジェクタの改造を終えたところである。今後は今年度に議論した刺激作成のためのメソッドを用いて刺激の調整を行い、認知機能を調べる心理実験を行う予定である。 また、今年度はこのほかに、盲点領域のメラノプシンの刺激が視知覚に及ぼす影響も実験的に調べた。視覚的注意を扱う本課題にも関連するこの実験からは、盲点領域のメラノプシンが視知覚を変化させる強い証拠が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度はプロジェクタを用いた多原色光源刺激装置の作成を行った。プロジェクタの改造は繊細な作業を要するものであり、改造後に機材が故障してしまうこともあったため、何度かプロジェクタを新しいものに入れ替える必要があった。それでもなお、現在は二台のプロジェクタの改造を終え、刺激の作成を行うことができる段階にあり、順調な進展を見せているといえる。また、今度行う刺激の作成方法はほぼ完成しており、今後の作業は順調に進むと考えられる。 また、今年度は30人近くの実験を行い、メラノプシンと視知覚に関する実験の成果を得ることができた。この実験は、これまでの仮説に合致する強い証拠となり、今年度の大きな研究成果であると考えている。また、今年度はこれに加えて日本視覚学会で瞳孔に関する研究発表を行い、関連する研究分野の方々からの意見を得ることができた。これらの理由から、本研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の本研究は二つの点において重点的に進める予定である。 まず一点目としては、プロジェクタを用いた多原色光源刺激装置を完成させ、認知機能に関する実験を進める。現在はプロジェクタの改造が終わっており、刺激の作成ができる状態である。来年度は刺激の作成とプロジェクタの調整を第一に行う。被験者ごとの刺激の調整方法について議論を進めた後、実際に装置を利用して実験を実施する。多原色光源刺激装置によりメラノプシンの刺激量を選択的に変化させ、メラノプシンの受容した光情報が認知機能やヒトの行動に影響を及ぼすのか、さまざまな実験をおこなって議論を進める。 二点目としては、研究結果の積極的な対外発表を行う。本年度に実施されたメラノプシンと視知覚に関する実験からは、論文化を進めるにあたって十分な結果が得られているため、この論文の投稿を今年度の初期に行うことを計画している。また、本年度の実験の結果や今年度行う実験について、海外学会を中心に対外発表を行い、研究内容の新たな発展を目指す。なお、来年度は、メラノプシンに関連する海外の研究室との交流が既に具体的に計画されているため、これらの交流を通して、新たに得られた知見や意見を元に実験内容を柔軟に変更させつつ、メラノプシンが受容した光情報が視知覚や認知機能に与える影響について議論したい。
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Research Products
(3 results)