2022 Fiscal Year Annual Research Report
日本近世文学・文化史における浮世草子の商品性について―西鶴本の重版・異版を中心に
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22J20160
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto Prefectural University |
Principal Investigator |
前田 知穂 京都府立大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | 井原西鶴 / 浮世草子 / 重版 / 異版 / 好色一代男 / 日本永代蔵 / 菱川師宣 / 西沢太兵衛 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は井原西鶴の著作が出版文化史上、どのような意義をもたらしたのかを再検討することを目的として、『好色一代男』江戸版・絵本版、『日本永代蔵』異版といった「重版」「異版」に着目している。本研究の目的を達成するためには、まず、これらの版本に対し翻刻や校合、挿絵の検証などといった基盤研究を行い、その特徴を明らかにする必要がある。そのために①翻刻・書誌的調査などの基盤研究②初版との比較研究を行った。 江戸版・絵本版:① 本年度から江戸版の翻刻に着手し、全章のうち四分の一程度、翻刻を終えた。絵本版は既にほぼ全章の翻刻を完了していたが、底本で欠丁となっていた章の内容を明らかにした。 ② ①の内容を基に『好色一代男』の初版である大坂版と対照し、比較研究を行った。本年度はテクスト面での比較に特に注力し、内容の異同、漢字やルビの多寡、体裁の差異などの観点から、初版との共通点・相違点を調査した。特に絵本版のテクストは大坂版・江戸版のダイジェストであるため、絵本版では大坂版・江戸版のストーリーをどのように取捨選択したかという点から精読を行い、以下のことが判明しつつある。 これまで江戸版のテクストは大坂版に不忠実という評価が下されてきたが、江戸版は独自の編集方針に従い、大坂版のテクストの内容をおおむね忠実に再現している。また、絵本版では大坂版・江戸版に登場する特定の人物の描写に対し、改変・省略を行う傾向が見られる。 異版:①② 翻刻とともに『日本永代蔵』の初版である三都版との対照を進めており、その成果を毎年、学術誌に発表している。本年度は「『日本永代蔵』異版(西沢版系統) 巻二(大長)・巻三(西長)―翻刻―」を発表した。また、比較検討の結果、異版と三都版のテクスト、挿絵間の関係性について一定の傾向があることが推測された。 以上の成果については順次、論文化の準備を進めており、次年度以降、公表する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は江戸版・絵本版・異版のテクストに焦点を当て、それぞれの初版である大坂版・三都版との比較を中心に研究活動を行った。いずれも計画通りに翻刻や比較検討を進めることができ、異版に関しては巻二(大長)・巻三(西長)の調査結果を公刊するに至った。各版本のテキストを同時に調査することで、版本間の影響関係について深く考察することができたため、その内容を来年度から順次、論文化していく予定である。 本年度の計画で予定していた資料調査は新型コロナウイルス感染症の流行の影響を鑑み、行うことが出来なかった。同時に、挿絵に関する調査や江戸文学との比較は、資料調査の結果を基に行う必要があるため、若干の遅れが出ているが、関連資料の収集を行い、その資料を用いて比較検討を進めるなど、大部分の調査に着手している。 このように計画の一部に変更や遅れはあるものの、おおむね計画通りに研究を遂行できていると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に引き続き、来年度以降も江戸版・絵本版・異版の翻刻、初版との比較検討を継続して行う。本年度は翻刻、初版との対照を大幅に進めることが出来たため、来年度以降はその成果を基に、重版・異版間の影響関係についても調査を進めていく予定である。特に、異版には江戸版と同様の性質が見られ、江戸版から異版への影響関係がある可能性が高いため、両者の比較を行っていきたいと考えている。 また、本年度に行うことが出来なかった資料調査を行い、挿絵に関しても調査を進めていきたいと考えている。同時に、江戸文学や後続の浮世草子との比較研究によって、マクロな視点から重版・異版の特徴を明らかにしていきたいと考えている。
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