2022 Fiscal Year Annual Research Report
がんカヘキシーや加齢に伴う筋萎縮の予防・改善のための分子標的と分子経路の解明
Project/Area Number |
22J20631
|
Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto Prefectural University |
Principal Investigator |
大藪 葵 京都府立大学, 生命環境科学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
|
Keywords | FoxO1,3,4 / がんカヘキシー / サルコペニア / 筋萎縮 / 骨格筋 / 臓器連関 / 廃用性筋萎縮 |
Outline of Annual Research Achievements |
がんカヘキシーに伴う筋量と筋力の低下は患者の虚弱を引き起こすことから、日常生活動作や生活の質低下の原因となる。特に、がんカヘキシーはがんによる死因の最大20%を占めることが報告されているものの、その根本的な治療・介入法は未だ十分には確立されていない。我々はこれまでの研究で、転写因子FoxO1が筋萎縮発症の原因となる因子であることを突き止めるとともに、絶食による筋萎縮を説明し得る新規経路としてFoxOs-C/EBPδ軸が存在していることを見出してきた。しかし、がんなどの疾患に付随した筋萎縮の発症機序には不明な点が多い。そこで本年度は、がんカヘキシーによる筋萎縮とFoxOs経路との関係を調べるために、骨格筋特異的なFoxO1,3,4欠損マウスの担がんモデルを作製した。 FoxO1,3,4欠損マウスでは腫瘍形成に伴う筋量や筋力の低下が抑制されたことから、骨格筋FoxOsシグナルの活性化はがんに付随した筋量の低下のみならず、筋機能の低下の原因にもなっていることが示された。さらに我々の研究成果から、絶食のみならず、がんに伴う筋萎縮においても共通してFoxOs-C/EBPδ軸が機能していることが示唆された。 一方、筋萎縮における骨格筋FoxOsの役割に関してはその詳細が明らかになりつつあるものの、個体全身レベルでの骨格筋FoxOsの果たす役割については不明な点が多い。そこで本年度は、絶食やがんにおける骨格筋FoxOsの役割について臓器連関の観点から新たに解析を行ったところ、絶食時の骨格筋と肝臓の間にはFoxOsシグナルを介した連関機構が存在することが判明した。加えて、廃用、加齢、FoxO1過剰発現時の骨格筋代謝産物の変化を統合的メタボローム解析によって比較解析した結果、萎縮筋では共通して、これまでにFoxOsとの関連が未知であった「X代謝経路」に特徴的な変化を示すことを見出した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
がん細胞の培養上清をC2C12筋管細胞へ添加、あるいはがん細胞とC2C12筋管細胞をカルチャーインサートを用いて共培養することで、In vitroの筋萎縮モデル系を確立した。そして、がん細胞が他の種類の細胞を介さずに直接的に骨格筋におけるFoxOシグナルの活性化と筋管細胞の萎縮を誘導することを観察した。さらに、初代培養の筋管細胞においても同様の解析を行った。加えて、In vivo解析として、骨格筋特異的なFoxO1,3,4欠損マウスの担がんモデルを作製し、体重、腫瘍サイズ、血漿中の炎症性サイトカイン濃度、筋重量、筋力、筋組織切片作製、qRT-PCRやウェスタンブロット法による筋タンパク質合成系・分解系の発現変化を調べた。また、マイクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析とバイオインフォマティクス解析を行い、がんカヘキシーに伴う筋萎縮時にFoxOによって発現制御される遺伝子や分子経路を探索した。これらの解析によって、がんカヘキシーにおける筋萎縮がFoxOの欠損によって抑制される分子機序の一端を明らかにすることができた。 さらに、骨格筋FoxOsシグナルの新しい生理的役割に関する知見や、萎縮筋を特徴づける骨格筋内代謝産物の変化を見出すことができた。 これらの研究成果は積極的に学会・研究会等で発表し、日本アミノ酸学会第16回学術大会(優秀ポスター賞)、第12回4大学連携研究フォーラム(優秀賞)、22nd IUNS-ICN(Young Investigator Excellent Abstract Award)、第36回日本糖尿病・肥満動物学会年次学術集会(若手研究奨励賞)、第9回骨格筋生物学研究会(Young Investigator Award)で受賞した。これらの業績により、2023年3月に京都府立大学学長表彰を受けた。以上より、当初の計画以上の進展が得られたと考えた。
|
Strategy for Future Research Activity |
①In vivo解析として、がんカヘキシーモデルの解析(ChIP-seqやChIP-qPCRなど)を進めることで新規の筋萎縮原因遺伝子Y候補を同定する。また、がんカヘキシー以外の筋萎縮モデルの作製を行うことで、がんカヘキシーに伴う筋萎縮とその他の筋萎縮におけるFOXOシグナルの役割を比較する。これらの筋萎縮モデルなどに関して、臓器連関の視点からの解析や代謝産物の解析を行う。さらに、骨格筋特異的なFOXO1,3,4欠損マウスの加齢性筋萎縮モデルの作製・解析を行う。 ②In vitro解析として、siRNAを用いたRNAiスクリーニングやレポータージーンアッセイなどにより、新規の筋萎縮原因遺伝子Yを同定する。 さらに、がんカヘキシーなどによる筋萎縮時の「X代謝経路」の変化にも着目しながら、In vivoおよびIn vitroでの解析を実施する予定である。
|